解説シリーズ[心を考える](その9);
いじめ:(中)
 前号に引き続き、「いじめ」について解説します。

<なぜ「いじめ」が起こるのか?>
 いじめの問題を考える時、なぜ「いじめ」がおこるのか、という疑問は当然出てくるのですが、そう問われて、明解に簡潔に答えるのは困難です。私がにわか勉強をしたところで、とてもまともに答えられる問題ではありません。
1.社会が変わり、家庭が変わり、いじめも変わった
 いじめ問題の研究者によると、いじめは、高度成長期の前後で様変わりしてきた、というのです。昔のガキ大将は、弱い者をいじめましたが、自分の子分になれば、その子どもをいじめることはしなかった。いじめるといっても、相手が泣き出してしまえば、そこで勝敗は決して、それ以上にしつこくいじめ続けることはなかった。むしろガキ大将は、一緒に遊びながら弱者を守っていたところがありました。つまり、かつての「いじめ」には子供社会の暗黙のルールがあって、そのルールに則って行なわれていたし、また、いじめの現場に出くわした人は、止めに入ったものです。
 ところが、日本が高度成長期にさしかかると、社会も家庭も変わってきました。昭和40年代以降、親は子どもに子ども部屋を与え、子どもは自分の部屋ですごすことが多くなりました。経済的に余裕のある家庭では、子ども部屋にテレビを買い与え、子どもは自室でテレビを見たりテレビゲームに興じたりしました。また、習い事や学習塾に通う子が多くなり、子どもたちが日々のスケジュールをこなすのに忙しくなっていきました。一方、父親は仕事が忙しく、残業や接待・つきあいで帰宅は深夜、という家庭が多くなりました。当然のことに、家族団らんは減り、親子のコミュニケーションも少なくなりました。核家族化で、祖父母と同居の子どもは減っていきました。
 そういう時代になると、かつてのガキ大将は「絶滅」です。
2.大人が知らない現代社会の「いじめの構図」
 バブル崩壊後の近年、さらに社会は変化しつつあり、各種の「格差」が生じています。子どもたちはいろいろなストレスにさらされ、バーチャルで現実感のないゲーム世界にのめりこんでしまいます。それは、生身の人間とのコミュニケーション能力の著しい低下を生み、ゲームの世界では失敗してもリセットしてやりなおせる、という現実の世界では通用しないルールに慣らされていきます。このようなゲーム感覚が、そのまま現実の社会に持ち込まれて、「いじめ」もゲーム感覚で遊びのように感じてしまっている、そういう面がありはしないか?
 時代とともに様変わりした現代のいじめは、徹底的に相手を潰すまで行われるし、いじめられている現場を見ても、誰も止めることをしない。ときには自分の友達すらいじめに参加して、よってたかって正に集中砲火を浴びせてしまいます。こうなると、いじめられた子は、身も心もズタズタにされてしまうのです。
 執拗に集中的にいじめられ続けても、おとなに相談すると、その行為は「ちくり」とされ、子どもの世界では「ルール違反の裏切り行為」と見なされます。それは、さらなるいじめの理由にされて、いじめのエスカレートにつながることを子どもは知っています。誰にも相談できず、追いつめられて自殺するという事件に発展して、いじめは社会問題化してしまいました。−−−−−−

<報道された「いじめ」関連事件>
1.中野−−−中学いじめ自殺事件
 1986年、日本で初めて「いじめ自殺事件」としてクローズアップされた事件で、俗に「葬式ごっこ事件」とも言われます。
 東京都中野区の中学2年の男子生徒が、−−−−−遺書が残されていて、「おれだってまだ死にたくない。だけどこのままじゃ、生きジゴクになっちゃうよ」と書かれていた。この生徒は同じクラスのグループからいじめられ、それが徐々にエスカレートして、日常的に暴行を受けるまでになった。さらに、そのいじめグループらの主催によって学校でその男子生徒の「葬式ごっこ」が開かれることとなる。その「葬式ごっこ」には担任教師らが荷担し、−−−−その翌年、ついに自殺したのです。
2.山形マット死事件
 1993年(平成5年)に山形県−−−−中学校で発生した男子中学生の死亡事件です。同中学校1年生の男子生徒が、体育館の用具室内で遺体となって発見された。生徒の遺体は巻かれて縦に置かれた体育用マットの中に逆さの状態で入っており、死因は窒息死であった。警察は上級生3人を逮捕、同級生4人を補導し、事情聴取でこれら計7人の生徒は犯行を認めていた。しかし、その後このうち6人の生徒は、犯行自供を撤回し、犯行を否認した。−−−−本事件の捜査では、−−−−−が指摘された。
3.愛知県−−−中学生いじめ自殺事件
 1994年(平成6年)に愛知県−−−中学校2年の男子生徒(当時13歳、K君)が、−−−−死んでいるのを母親に発見された。葬儀後、自室の机から遺書が見つかり、その中には同級生4人から受けた壮絶ないじめの詳細が書いてあり、「もっと生きたかった」とも書かれていました。K君は、繰り返し要求されたお金を工面するのに大変な苦労を重ねた。遺書と一緒に、K君がいじめグループに取られたお金を記録していた「借用書」と書いた紙が出てきて、その合計は114万円余りになっており、K君は「働いて必ず返します」と書いていました。
4.−−高校いじめ自殺事件
 2007年、兵庫県神戸市の高校3年生の男子生徒が、いじめを苦にして飛び降り自殺した事件である。学校側がいじめを否認し続けていたことや、学校裏サイトを使用したインターネット上のいじめが行われていたことから注目された。
 当初、学校側はいじめを否認し続けていたが、いじめ加害者4人が逮捕されるにいたり、いじめの存在を公式に認めた。金銭の要求や、机や引き出しへのいたずら、使い走りの強要などのほか、インターネット上のいわゆる「学校裏サイト」で中傷行為を受けていたことが判明。−−−−などの個人情報が掲載されたりしたという。
5.大阪−−高校「いじめ報復殺人事件」
 1984年(昭和59年)、同高校の二人の生徒が、この二人をいじめていたいじめグループのリーダーを襲って死亡させた事件です。
二人は、いじめ被害を数人の教師に相談したが、取り合ってもらえなかった。いじめはエスカレートし、−−−−、ついに二人はリーダーの殺害計画を立てることになる。夜、自転車に乗っていたリーダーを襲い、−−−−川に投げ込み水死させた。
6.横浜浮浪者襲撃事件
 1982年(昭和57年)から翌年にかけて、横浜市の中学生を含む14才から16才の少年10人ほどが、公園などに野宿していた浮浪者たちを「プータロー狩り」と称して襲い、10数人の死傷者を出した事件です。加害者の少年たちのインタビューでは、少年たちは、自分たちが始末したのは「汚くて臭いプータローたち」であって、「人を殺した」という実感がないようであった、という。

解説コーナー[最近登場したワクチンについて解説]
 最近、各種の新しいワクチンが登場しましたので、解説いたします。
<ヒブ・ワクチン>  (商品名;アクトヒブ)
 インフルエンザ菌b型(Hib)は、乳幼児では髄膜炎、敗血症、肺炎などの重篤な病気を引き起こすことがあります。0〜2才の子がこの髄膜炎にかかると、知能や運動機能の障害、難聴などの後遺症が残ることがあり、死亡する場合もあるので、恐れられています。この菌に対するワクチンは、わが国ではようやく2008年12月に接種できるようになりました。
 接種法は、初回接種を生後2〜6か月から始めて、1回目の接種から4〜8週間の間隔で合計3回接種。さらに1年後にもう1回の追加接種を受けます。定期接種の三種混合ワクチンと同時に受ければ、通院の負担が減らせます。
 初回接種開始が、7〜11か月の場合、4〜8週の間隔で2回接種、追加接種を1年後にもう一回受けます。初回接種開始が1才以上5才未満の場合は、1回だけ接種します。料金は自費扱いで、1回当たり6,000円〜7,000円が相場です。
<小児用肺炎球菌ワクチン> (商品名;プレベナー)
 小児の細菌性髄膜炎の原因となる細菌の中で、最も多いのがHib(ヒブ)で、その次に多いのが、肺炎球菌と呼ばれる細菌です。近年、抗生物質が効きにくい菌が増えており、治療が難しいのが問題です。このワクチンは、諸外国では以前から接種されていましたが、わが国では今年2月に接種が開始されました。
 接種法は、初回はヒブ・ワクチンとほぼ同様ですが、対象年齢は生後2か月から8才までとなっています。なるべく早い時期に接種を開始し、5才ぐらいまでに終えるのがおすすめです。接種に通院する回数がふえすぎないように、三種混合ワクチン、ヒブ・ワクチンに加えて肺炎球菌ワクチンも同時に接種するのも可能です。(ただし一回に3か所に注射することになりますが。)
 料金は、自費扱いで、1回当たり9,000円〜10,000円が相場のようです。
<子宮頸癌ワクチン>  (商品名;サーバリックス)
 子宮癌は、子宮体部にできる「子宮体癌」と、子宮の入り口(子宮頚部)にできる「子宮頚癌」がありますが、「子宮頚癌」は、発癌の原因としてHPV(ヒトパピローマウイルス)というウイルスが関与しているといわれています。このウイルスに対するワクチンは、諸外国では2006年以降すでに接種されていますが、わが国では2009年10月に「サーバリックス」が認可されました。
 接種対象者は、10歳以上の女性。接種回数は合計3回で、初回、1か月後、6か月後のタイミングで筋肉内(上腕部)に注射します。
 このワクチンには、効果を高めるために「免疫増強剤」が添加されており、注射部位の局所反応(発赤、痛み、はれ)がかなり出ます。局所以外には、微熱、頭痛、関節痛、だるさ、などが出ることもあります。通常、数日でおさまります。
 料金は、自費扱いで1回に1万5000円ぐらいですが、今後、小学6年生と中学3年生の女子の接種に対して市や町からの助成金が出ることになりました。


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