中沢クリニックだより
新年号(第66号)

[新年のごあいさつ]
 皆様、新年おめでとうございます。一月といえば、寒さの厳しい季節には違いありませんが、なんとなく暖冬のように感じてしまうのも、地球温暖化の気配でしょうか。周囲の山々が真っ白に雪を頂いている姿を見れば、確かに真冬の季節を実感できるのですが・・・。また、新しい年が始まりました。これからの一年がどんな年になるだろうか、目標とすべき項目として何があるだろうか、など考えながら、何はともかく健康にすごせるように願っているところです。
 小泉政権の時代に、医療福祉の分野は聖域でも特別でもなくなってしまいました。歳出削減の大号令のもと、容赦のない「医療費の引き下げ」、「患者負担の引き上げ」が断行され、それは安倍内閣となっても継続されております。地方の中核的な公立病院などで、勤務医不足が一気に進み、産婦人科や小児科だけでなく、病院の中核ともいえる内科や外科にも及んできて、まさに「医療崩壊」といえるような状況を呈している所もでています。
 今後の医療の動向を考えてみますと、あと一年後の来年4月には、健康保険制度が大幅に変更され、大きく様変わりする見込みで、すでに噂が飛びかっています。この一年は、つまり「嵐の前の静けさ」のような一年となるのではないでしょうか。さらに先を予測すれば、介護を要する高齢者が増加し、今後、看護や介護にたずさわる人手が不足するのは目に見えており、近隣のアジア諸国から人材を受け入れていかねばならない時代がすぐそこまで来ています。療養型病床の削減が決まっており、病院から出されても、受け入れられる療養施設は限られ、かといって自宅にも帰れない、いわゆる「介護難民」が心配されています。医療費の自己負担が増加していく状況では、受けられる医療の内容に「格差」ができてしまうのは、避けられそうもありません。
 安倍首相の唱える「美しい国・日本」もよろしいのですが、あまりにも漠然としていて実感に乏しく、「絵に描いた餅」にならなければよいですが。むしろ多くの国民にとっては「安心で健やかな日本」の方が切実ではないでしょうか。
 さて、当クリニックは今年、開業19年目を迎えました。昨年は、鼻からも入れられる最新の胃カメラを導入し、好評を得ております。今年も、日進月歩の医学の勉強に努め、最新の医療技術の導入を心がけていきたいと思います。今年も皆様のホームドクターとして、十分にその役目を果たせるよう、精一杯がんばっていく所存ですので、皆様の忌憚のないご意見やご批判をお願いいた します。

解説シリーズ[心を考える](その4)
摂食障害(2); 過食症(下)

<過食症の診断は?>
過食症の診断は、次のような診断基準をもとにおこないます。
1.次のような「むちゃ食い」をくりかえす。
 *一定の時間内に、普通の人が食べるよりも明らかに大量の食物を食べる。
 *過食を自制できない、という感じがある。
つまり、「食べずにはいられない」、「食べるのが止められない」といった強い衝動がある。
2.太らないように、自分で吐いたり下剤や利尿剤を使う、激しい運動をする。
3.「むちゃ食い」や「排出行動」が、平均で1週間当たり2回以上で、それが3か月以上続く。
4.体型や体重へのこだわりが続いている。
5.拒食症の病状の期間中は、過食発作があっても過食症とはいわない。

 たくさん食べれば、普通、体重は増加するものですが、過食症では大食後に吐いたり、無理やり下痢したりするので、必ずしも体重は増加せず、定期検診でも見逃されてしまうことが多いのです。
 過食の後に、体重の増加を防ぐために「代償行動」がみられますが、そのパターンによって二つのタイプに分けられます。一つは、自己誘発性嘔吐や下剤の乱用などの「排出型」、もう一つは、激しい運動や絶食をする「非排出型」です。また、拒食症の経過中に過食が出現して、過食症に移行するタイプと、最初から過食症状が出現して過食症を発症するタイプとあります。
 診断の手がかりとして、身体面の異常では、前号でも触れましたが、手に「吐きだこ」ができる、唾液腺が腫れる、歯の異常をきたす、などがあります。血液検査では、血清アミラーゼの上昇が見られることが多く、嘔吐の繰り返しや下剤・利尿剤の乱用があると、カリウムやクロールの低下、が見られます。

<治療は?>
 過食症では、過食がストレス発散の有効な手段になっている場合が多いので、なかなか簡単には過食がやめられません。また、「過食」という行為さえ解消できればすべて解決、という訳にもいきません。
 この病気には特効的治療はなく、治療の基本は、自分の内面の問題やストレスを過食で晴らそうとしないように、していくことです。そのためには、心理カウンセリングが有効で、心理的治療により「認知行動療法」を行います。
たとえば、「三食きちんと食べると、どんどん体重が増えてしまう」と思いこんでいるような「認知のゆがみ」をとりあげて、本当にそうなのかどうか検証しながら、誤った認知を修正していきます。また過食の代わりになる行動をいくつか考えておき、過食したくなったら順番にその行動をおこなっていくことで、過食を回避できるようにしていきます。
 また、拒食症でも治療法に挙げられていますが、過食症でも「家族療法」があります。これらによって、症状の背景にあるストレスと人格的な問題の治療をおこなっていきます。これらの治療は、心療内科や思春期外来を受診して相談します。
 薬による治療としては、抗うつ剤(たとえばSSRI)、感情調整薬、ある種の抗てんかん薬、などから選んで使用されます。
 日常生活での注意点として、食べ物を家に買い貯めしない、自分の部屋に食べ物をたくさん置かない、外出するときは必要以上のお金を持って出ない。また、過食したい衝動が生じてきたら、趣味(楽器演奏、読書、インターネット、テレビゲームなど何でも可)に手をだしたり、運動をしたり、庭の草花の世話をしたり、などによってしばらくやり過ごして、衝動をうまく回避してみます。もし2回に1回うまくいけば、回数を半分に減らせたことになるのですから大きな収穫です。

<経過について>
 5年、10年と長くかかっている人があり、慢性化しやすいのは確かです。しかし、一生涯、過食症のまま、ということはなく、ある程度の期間で解消していくのが一般です。
 過食症では拒食症に比べると、人格障害を示す割合が高く、感情の起伏が激しく、衝動性が強い「境界性人格障害」が目立ちます。また、「アルコール依存症」、「うつ病」、「パニック障害」などを合併したり、「薬物乱用」、「家庭内暴力」、「自傷行為」、「自殺企図」、「性的逸脱」などがみられる場合もあります。

<家族の対応>
過食症は、たいがい、その根本に「うつ」「不安」「孤独」といった感情の不安定さが見られます。ですから、家族は単に過食だけをやめさせようとせずに、そうした感情に心を配るようにしましょう。過食や排出行動を、家族がとやかく言ってやめさせようとしても、本人はかえって不安定になり、さらにひどく過食するようになってしまうかもしれません。
 過食症が長くなってくると、ゆううつ感が強まり、ひきこもりの傾向が出てくることがあります。自分を卑下したり、無気力になったりもします。そういう時に、家族など周囲が、ご本人の自己評価が低下しないように、ちょっとした目標が達成できたら評価してあげたり、少しでも良いところを見つけてあげたりして、支えてあげて下さい。他人に評価されれば、気分が上向きになるでしょうし、自信につながるキッカケにもなるでしょう。それによって、ゆとりやほっとした感じが増えてくると、過食という行動がおさまっていく助けになると思います。

<最後にひとこと>
 拒食症と過食症を含めた摂食障害は、わが国では高校生・大学生の女性の約2%にみられる、という統計があります。決してマレな病気ではありません。「食育」ということばを最近よく見聞きします。食事は、単に体に必要な栄養素を摂取するということではなく、最も大切な基本的生活習慣の一つです。家族で食卓を囲み、なごやかに楽しく食事をすることは、一家の団らんであり、子どもの教育の場であり、家族の絆を深める大切な場でもあります。核家族化や少子化で家族の人数は少なくなっており、また、一人一人の生活パターンが多様化して食事もそれぞれの都合でバラバラに食べるような、「個食」という現象もでています。スーパーやコンビニでは、たくさんの種類の食べ物や飲み物が手にはいり一見便利ではありますが、家庭の味、おふくろの味、手料理、などと縁遠くなってしまうのは、誠に残念なことです。家族が食卓を囲んで、語らいながら、なごやかな食事をする、そして、子どもたちが心身ともに健全に発育する、そういう家庭にはおそらく「摂食障害」なんていう病気は無縁かもしれません。
 5回にわたり解説してきました「摂食障害」のシリーズは、今回で終了します。次号では、また別のテーマに取り組んでいきます。皆様のご意見、ご感想をお寄せ下さい。

[お役に立てます、ご利用下さい]
 当クリニックでは、病気の検査や治療などの診療の他に、QOL(生活の質)の向上のためにお役に立てるよう、次のような内容を取り扱っておりますので、どうぞご利用下さい。

禁煙指導が健康保険扱いで受けられます。昨年6月から、禁煙指導とニコチンの貼り薬が健康保険で扱えるようになりました。禁煙外来では時間をかけた指導が必要ですので、なるべく平日の午後の診療時間に受診して下さい。電話予約も受け付けます。

バイアグラ・レビトラ;ED(勃起不全)の治療薬です。中高年の男性にお役にたっております。尻込みせずに、思い切ってご相談下さい。

肺炎球菌ワクチン;特に高齢者で心配な重症肺炎の予防に役立ちます。一度の接種で、長期間有効です。甲府市では、補助金が出るようになりました。

帯状疱疹の予防ワクチン;強い痛みがつらい帯状疱疹の予防に役立つワクチンが使えます。中高年の方におすすめです。

生理を調整する薬(月経周期調整剤);行事や旅行に生理が重なる場合に役立ちます。

低用量ピル;経口避妊薬として、また月経困難症への対策として、女性に役立ちます。

健康診断、人間ドック;市のドック、個人的なドック・健康診断、定期検診や健康診断で問題が出た場合の二次検診、入社用、入学用、各種免許用、など対応しております。

小児の予防接種の相談;小児のワクチン接種のやり方は、毎年のように変更されており、どのように接種を受けたらよいか、わかりにくいと思います。母子手帳を持参し、できるだけ電話予約の上、おいで下さい。

在宅療養、訪問診療;ご自宅で療養中の患者さんで、クリニックに通院がむずかしい場合は、こちらから定期的に訪問して診療する方法が可能です。ご相談下さい。


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