中沢クリニックだより
新年号(第54号)
<新年のごあいさつ>
 皆様、新年おめでとうございます。
日本も世界も、いろいろと問題をかかえていますが、なんとか良い方向に向いて、この一年が良い年になるように、と願わずにはいられません。
 環境問題は、年々その重要性が増していますが、医療の世界でも大事なテーマです。注射器や注射針は、もちろん使い捨てになっていますが、これらの医療廃棄物の処理は、専門の処理業者に委託し、きちんと処理できるようにしています。また、院内の環境については、院内を全面的に禁煙とし、快適性に配慮し、感染予防にも注意しています。
当クリニックでは、院内で使用していただくスリッパを殺菌消毒できるように機器を設置いたしました。薬の持ち帰り袋についても、患者さんがご自分用の袋を持参していただければ、資源の節約になり環境にも好ましいので、ご協力いただければありがたいです。
 さて、当クリニックでは以前から、「健康日記帳」や「健康データノート」を患者さんに勧めています。ご自分の健康管理にきっと役立つものと思いますので、是非、ためしてみて下さい。当クリニックでは、今年も、皆様のホームドクターとして十分に役目を果たせるよう、精一杯がんばっていきたいと思います。皆様の忌憚のないご意見やご批判をお願いいたします。

解説シリーズ[心を考える](その2)
パニック障害(前半)
 最近、パニック障害という病名をよく見聞きしませんか。「パニック」とは、辞書で引けば、思いがけない事態に直面した際に引き起こされる混乱状態、ということですが、それに障害ということばが付いて、パニック障害とはどういう病状でしょうか? この病名が使われるようになったのは、ここ20年ほどのことですが、病気自体は昔からあります。めずらしい病気ではなく、100人のうち2〜3人が生涯のうちにパニック障害にかかる、といわれています。従来、「不安神経症」、「心臓神経症」、「自律神経失調症」などといわれていた病状を含んでいます。

<実際はこんなふうです>
 32才の主婦、Sさん。ある晩、自宅で突然、動悸・呼吸困難・発汗・手のしびれ、が出現して、「このままでは死ぬのではないか」と思い、救急車を呼び近くの病院の救急外来を受診しました。しかし、病院に着いた時にはその「発作」はおさまっていて、検査でも特に異常は見つからず、帰宅しました。その後も発作をくりかえし、「また発作がおきたらどうしよう」と不安になり、一人で外出することを避けるようになりました。何回かの発作の後、総合病院の内科を受診して精密検査を受けました。ここでの検査でも異常は見られず、医師から精神科を受診するよう勧められました。精神科での診察の結果、Sさんはパニック障害と診断され、内服薬による治療を開始しました。3か月ぐらいで発作はほとんど起こらなくなり、半年後には発作に対する不安もほとんどなくなりました。治療の開始から2年ほどたって、薬をへらしていける状態になってきました。

<パニック障害とは?>
 パニック障害(Panic Disorder)は、特に身体の病気がないのに、突然、動悸・呼吸困難・めまい、などの発作(パニック発作)を起こし、それを繰り返すために発作への不安が増して外出などが制限される病気です。
1980年に、アメリカ精神医学会が出した「精神疾患の診断・統計マニュアル第三版」に、パニック障害という病名が登場しました。1992年には、WHOの国際疾病分類にパニック障害という病名が登録され、国際的にも認知されました。パニック障害は、男性よりも女性に多く見られ、男女ともに20〜30才代に多く見られます。長引くと仕事などができなくなったり、「うつ病」になることもあるので、専門医による診断と治療が大切です。

 パニック障害は、「パニック発作」と、その発作が再び起こるのではないか、という「予期不安」の二つから成り立っています。「パニック発作」は突然前ぶれもなく、動悸・息苦しさ・めまい、などの症状が出現し、そして同時に、「死ぬんじゃないか」「気が狂うのではないか」「自分がコントロールできない」という耐え難い恐怖感を伴います。このため患者さんは、何か重大な病気ではないか、と思って、がまんできずに救急外来を受診することになります。しかし、病院に着いたころには発作はおさまり、検査をしても原因となる異常は見つかりません。それにもかかわらず、その後もパニック発作が繰り返し起こるため、「また発作がおこるのではないか」と過度に不安な状態になります。これを「予期不安」と呼びます。さらに、以前、パニック発作がおこった場所や、発作がおきた時に助けが得られない状況、たとえば電車・バス・渋滞中の車、などを避けるようになります。そうなると、一人で外出することが困難となり、学校や会社にも行けなくなります。また、何か重大な病気が見逃されているのではないか、と思いこみ、病院から病院へと渡り歩く人もいます。

<診断はどのようにしますか?>
 パニック障害は、通常の検査では特に診断の役に立つものはなく、これを検査すれば診断できるという検査法はありません。症状の原因としてはっきりしたものがあれば、それはパニック障害ではなくて、別の病気でしょう。たとえば、次のような症状から診断される病気がはっきり認められれば、パニック障害とは明確に区別する必要があります。

*動悸・頻脈・胸痛・胸部圧迫感; 心臓・血管系の病気
*呼吸困難・窒息感・息苦しさ ; 呼吸器系の病気
*めまい感・ふらつき感    ; 耳鼻科系の病気(メニエール病、その他)
*不安感・恐怖感       ; 精神科系の病気(うつ病、てんかん、など)
*身震い、手足の震え・しびれ ; 神経系の病気(神経障害、パーキンソン病)
*腹部不快感・腹痛・吐き気  ; 消化器系の病気

 誰でも、恐怖や不安に直面すれば、心臓がドキドキする、呼吸が苦しくなる、震える、冷や汗をかく、などの症状が出るでしょうが、パニック発作の場合それらが大変強い症状になって現れるのが特徴です。その激しさは、このままでは死ぬのではないか、と思うほどで、その場にうずくまり動けなくなってしまう人もいるほどです。

 通常、心療内科や精神科ではパニック障害であるかどうかを判断するために、パニック発作のチェックリストを用いた問診を行います。
 特徴的な症状として下記のような症状が挙げられています。このうち、同時に四つ以上の症状が急激に起こり、10分ぐらいまでに頂点に達し、1時間以内におさまることが多いようです。
 下記のチェックリストの症状は、いわゆる自律神経失調症の症状とよく似ていますが、パニック発作は、とくに原因もないのに、なんの前触れもなく不意に起こり、強い不安や恐怖感をともないます。たとえ、四つ以上の項目に当てはまっても、日常生活に支障がなければ、それはパニック障害ではありません。パニック発作があって、なおかつそれによるなんらかの生活上の支障が発生して、はじめてパニック障害と診断されます。
*非現実感(自分が自分でない感じ)
*発狂不安(狂う、常軌を逸する、自分をコントロールできない、という心配)
*死への恐怖(死ぬのではないかという恐怖)
*めまい、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、気が遠くなる感じ
*窒息感、息切れ(息がつまり、呼吸が早くなる)
*動悸、頻脈(心臓がドキドキして脈が早くなる)
*胸痛、胸苦しさ(胸の痛みや不快感)
*身震いや全身または手足の震え
*冷や汗をかく
*神経がピリピリする、しびれる
*吐き気、腹部の不快感
*身体全体の冷感や熱感
*胸騒ぎがする


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