中沢クリニックだより
秋の号(第61号)
解説コーナー [血液サラサラとドロドロ]
 ♪〜♪〜春の小川は さらさら行くよ 岸のすみれや〜〜♪ 皆さんご存じの童謡「春の小川」の冒頭部分です。小川に清らかな水が流れている音が、聞こえてきそうな感じですね。「さらさら行くよ」は、元の詞では「さらさら流る」となっていたそうですが、清く澄んだ、よどみない流れのイメージがあります。最近、よく耳にする「血液サラサラ」ということばも、小川の清らかな流れを連想させて、なんとも響きがよいことばですね。
 血液「サラサラ」とか、「ドロドロ」とかのことばが、テレビや新聞・雑誌などのマスコミに頻繁に登場していますが、実はこれらの表現は、正式な医学用語ではありません。最近では、食品や薬品のコマーシャルにも使われるようになりましたが、果たして効能が実証されているのかどうか。ことば巧みな表現にまどわされないように、医学的には「サラサラ」「ドロドロ」をどう考えたらよいのか、という観点から解説してみたいと思います。

<血液サラサラって?>
 血液は血管の中を絶えず流れ続けています。それは、酸素や栄養素を身体のすみずみまで送り届け、また、老廃物を運び出すためです。しかし、万一、血管が損傷する事態が発生すれば、すぐに固まって出血を止めなければなりません。血液というのは、血管内をよどみなく流れていくと同時に、いつでも必要があれば固まることもできる、という二つの性質を持ち、その間で絶妙のバランスを保っているのです。
 癌に次いで怖い病気に脳や心臓の血管の病気があります。脳や心臓は、生命維持のために非常に大切な臓器で、絶えず血液が循環している必要があります。
そのためには、1.血管の状態、と2.血液の流れ、の双方が健全である事が必要です。
この双方が健全で、血液が円滑に流れている状態を「血液サラサラ」と表現しているものと考えます。

<本当は「ドロドロ」が怖い>
 しかし、私見ですが、人間の血液が「サラサラ」と血管の中を流れているなんて表現は、まったく的をはずれた表現と思います。血液は、赤い色をした水ではなく、タンパク質、脂質、糖分、血球、などたくさんの成分を含み、むしろ「ねっとり」した液体です。その血液をいかに「サラサラ」にするかが大切ではなく、いかに「ドロドロ」にしないか、が大切です。血管がつまって血液の流れが止まってしまうことが怖いので、少しでも「ドロドロ」血液にしないようにすること、が大切ではないでしょうか。

<サラサラ、ドロドロはどうやって検査するの?>
 前述しましたように、血管の中を血液が円滑に流れるには、血管と血液と両方が健全な状態であることが必要です。
 まず、血管は血液が流れるパイプですから、その内面がスベスベしていて狭くなっている所がない、つまり動脈硬化がない状態が好ましい。動脈硬化度を検査するには、脈波検査、頚動脈エコー検査、眼底カメラ、心電図検査などがあります。血液については、その成分の濃度が問題です。蛋白質、コレステロール、中性脂肪、血糖、などの濃度、血球(赤血球、白血球、血小板)の数と機能、などが血液のねばっこさ(粘度)を左右します。以上の諸検査は、通常、人間ドックを受ければたいてい検査できます。さらに専門的には、血液粘度を測定する装置や血液流動性測定装置(MC−FAN)、を用いて検査しますが、これらはあくまでも専門的な特殊検査ですので、日常の臨床検査ではありません。
 血液流動性測定装置(MC−FAN)は、毛細血管を模した微細な溝に血液を流し、流れの状態を顕微鏡を通してテレビ画面に映し出して測定します。NHKの「ためしてガッテン」や「きょうの健康」の番組の中で、その画像をご覧になった方もいるでしょう。

<血液ドロドロを防ぐには?>
 血管と血液の両方を健全に保つには、食事内容、生活習慣、酒やタバコなどの嗜好品、などいろいろな点で注意が必要です。動脈硬化を防ぎ、血液の流れを良好に保つには、次のようなことを心がけてみたらどうでしょうか。
 食品は、ビタミン類や食物線維を含む緑黄色野菜・海藻・きのこ類、イワシ・アジ・サバ・サンマ・マグロなどの魚、納豆・豆腐・豆乳などの大豆製品、をバランスよく取り合わせて毎日食べ、逆にコレステロール・脂肪・糖分は少なくする。水分は多めに飲み、タバコは吸わない。酒は適量を楽しみ、適度の運動を心がけ、睡眠は十分にとり、ストレスをためないようにする。
 NHK総合テレビの番組「ためしてガッテン」で、以前、血液サラサラがテーマに取り上げられ、その後「血液サラサラ健康レシピ」といった本もでていますが、その中で野菜にしても魚にしても旬のものを食べるのが基本、とされています。以下に、血液サラサラに好ましい食材の主なものを挙げてみます。

[野菜・果物・きのこ] ニンニク、ニンニクの茎、ほうれんそう、ねぎ、青じそ、パセリ、にんじん、ニラ、アスパラガス、トマト、タマネギ、ごぼう、ピーマン、オクラ、春菊、ブロッコリー、セロリ、メロン、グレープフルーツ、はっさく、アボカド、バナナ、しいたけ、しめじ、たけのこ、など。

[魚貝類] まぐろ、はまち、ぶり、サンマ、いわし、たちうお、きんき、サバ、うなぎ(蒲焼き)、真鯛、ししゃも、さわら、にしん、めかじき、かつお、ほっけ、あなご、ひらめ、など。

[その他] 大豆製品、海藻、ごま、ナッツ類、赤ワイン、オリーブオイル、こんにゃく、緑茶、など。
背の青い魚には、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)が多く含まれ、血液サラサラに有効といわれています。
 以上のような食生活や生活習慣についての注意はもちろん大切ですが、高血圧症、糖尿病、高脂血症、肥満などの生活習慣病があって治療を要する方は、かかりつけ医にきちんと通院して、治療を受けることが基本的に大切なことです。

<広告にまどわされずに、正しい対処を!>
テレビや雑誌などで「サラサラ食品」「サラサラ料理」と称して、簡単に血液サラサラになるような印象を持たせるものを広告していますが、残念ながらそう簡単ではありません。サラサラ食品でも、そればっかり食べたり、過剰に摂取すれば、かえって健康に悪影響がでる可能性もあります。新聞の折り込み広告などで盛んに広告されている、民間療法の薬品についても、果たして本当に効能が確認できているのか、はなはだ疑問です。そういうものに飛びつく前に、まず、健康診断や人間ドックで自分の健康状態をしっかりチェックし、あわせて食生活や生活習慣を見直してみたらどうでしょうか。わからない点がありましたら、かかりつけ医に相談し、アドバイスを受けてみて下さい。


夏の号(第60号)へ   ⇒新年号(第62号)へ