解説シリーズ[心を考える](その8);
ひきこもり:(上)
 「心を考える」シリーズでは、(その7)として前号まで「不登校」について解説しました。そのテーマと関連のある「ひきこもり」について、今号から解説していきたいと思います。

<ひきこもりとは?>
「ひきこもり」とは、「6ヶ月以上自宅にひきこもって、会社や学校に行かず、家族以外との親密な対人関係がない状態」のことをさします(厚生労働省の定義による)。
 また、学校を社会的活動の場としない年代(10代後半以降)の場合を区別し、精神科医の斎藤環氏は、「社会的ひきこもり」として「20代後半までに問題化し、6か月以上、自宅にひきこもって社会参加しない状態が持続しており、ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくいもの」と定義しています。
 ここからの解説は、不登校と区別する意味で、社会的ひきこもりを「ひきこもり」と表現して、解説していきたいと思います。
「ひきこもり」は、特定の病名や診断名ではありません。さまざまな要因によって自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている「状態」のことです。
 統合失調症(精神分裂病)やうつ病などの精神障害が第一の原因とは考えにくい場合に「ひきこもり」と呼ぶことになっています。もちろん、統合失調症やうつ病などがあって、ひきこもり状態になることもあります。こうした場合にはその診断に応じた対処が必要となります。
「ひきこもり」とは、周囲との相互関係のなかで、自ら「ひきこもる」ことによって、強いストレスをさけ、消耗した心身を守ろうとしながら仮の安定を得ている状態、とも考えられます。しかしそれは、心理的にも安定している、ということではありません。「挫折」や「周囲に正当に評価されなかった」「周囲に受け入れられていない」と感じる体験がもとで、自信や安心感を失っている状態で、いわゆる「怠けている」とか「反抗している」として片づけられる問題ではないといえます。

<ひきこもりの実態>
 近年、いろいろな調査によってわが国のひきこもり事例が百万人規模という、相当な数に達しているといわれています。NHK福祉ネットワークによると、2005年度のひきこもり者は160万人以上、時々外出する程度のケースまで含めると(準ひきこもり)、300万人以上存在する、といわれています。
 その実態を示す、ある調査結果を示します。「NPO法人全国ひきこもりKHJ親の会」が、平成20年11月から21年1月にかけて、全国調査を実施しました。調査対象は、全国426名のひきこもり者(ひきこもり開始年令10才以上、調査時のひきこもり本人の年令50才未満)で、家族に調査用紙を渡し、記入してもらい回収しました。

*回答者は、主に母親です。母親;65%、父親;31%。

*回答者の年令は、平均60.4才。母親;39〜79才、父親;50〜79才。
 回答した父親が50才以上ということは、50才未満の父親は、ひきこもり者との関わりが少ないということでしょう。

*ひきこもり者の性別では、男性が80.0%を占めました。他の調査でも同様に、男性が女性よりも多い、という結果になっています。

*ひきこもり者の年令は、平均30.2才。13〜47才でした。

*ひきこもり期間は、平均8.8年、最長40年、という結果でした。

*ひきこもり開始年令は、平均21.2才。10〜44才で、特に12〜29才が89.3%と最も多い、という結果でした。

*ひきこもりの程度では、外出をいっさいしない人;27.7%、他者との関わりはないが外出している人;51.4%、ということで意外と外出できる人が多いようです。

*ひきこもり状態にある人が複数いる家庭;二人以上いる家庭が全体の9.3%あり、決して少なくないようです。

*ひきこもり本人の相談機関利用状況;継続的に相談機関を利用している人は13.0%、これも含めて相談機関を利用したことがある人は31.7%で、相談に来ない人が多い実態を示しています。

<なぜ、引きこもりになるのか?>
 ひきこもり状態を作り出す原因としては、成績の低下や受験の失敗、いじめ、など一種の挫折体験がみられる場合もありますが、通常、いくつかの条件が不利にはたらいた結果と考えるべきでしょう。10代後半から20代前半の青年期は、身体的な不調というよりも、精神的に不安定で動揺し、葛藤を生ずる時期です。さまざまな社会参加への義務感、周囲からの圧迫、将来への不安、期待にこたえられないことでの自責の念や劣等感、などが悪循環的に作用しあって、ついにはひきこもりに至ります。これは、外からの刺激やストレスに耐えられなくなったとき、我が身を守るために外からの接触を遮断し、殻に閉じこもってしまう、という状態とも考えられます。
 何らかの精神疾患を持っていると疑われる場合、区別すべき疾患としては、
・広汎性発達障害 ・社会不安障害 ・うつ病
・強迫性障害   ・パニック障害 ・統合失調症
・適応障害    ・解離性障害  ・PTSD(心的外傷後ストレス障害)
などが挙げられています。

<たとえばこんなふうです>
<ケース1> 26才、男性。高校1年の2学期から10年間、ひきこもり。会社役員の父、専業主婦の母の一人息子。小さいころから成績が良く、両親の自慢の息子で、教師からも将来を期待されていました。中学では、テニス部の主将をしていました。しかし、高校入学後から家庭内暴力が始まり、気に入らないことがあると食器を投げつけたり、母親に暴力をふるったりしました。ひきこもりとなり、高校は2年で中退。両親は精神保健センターに相談し、本人を説得してカウンセリングを受けさせたりしましたが、有効な手だてがないまま時間が過ぎてしまいました。本人は「俺の人生を返せ」と親を責め、最近では父親にも暴力をふるうようになりました。
<ケース2> 30才、女性、専業主婦。夫と4才の息子一人。問題もなく結婚生活を過ごしてきましたが、2年前、近所の主婦と子供の誕生日会のことでささいなもめ事が起きてから、家を出られなくなり、以来1年以上、ひきこもり生活を続けています。近所とつきあう自信がなく、子育てにも嫌気がさして、自殺未遂もありました。中学、高校と不登校もなく、母親は「今まで何の問題もない娘でした」といいます。最近では、両親を責めるような暴言を繰り返しています。


解説コーナー[新 型 イ ン フ ル エ ン ザ]
−−−その実態と「第二波」への備え−−−
<これまでの経過> 今回の「新型インフルエンザ」の騒動は、4月21日、米国カルフォルニア州での豚インフルエンザ患者発生のニュースから始まりました。その後まもなく、実はメキシコではすでに多数の患者が発生していたと判明、ブタ由来インフルエンザA/H1N1型は、これまでヒトへの感染がなかったので「新型」とされました。急速に世界中へ感染が広がる中、4月30日にはWHOは警戒水準を「フェーズ5」へ引き上げました。同日、日本でも発生例が報道され、5月16日には神戸市で国内発生第1例目が確認されました。
 その後、感染例の報告が国内外でたてつづき、6月12日にはWHOは警戒水準を最高の「フェーズ6」に引き上げ、ついに世界的大流行(パンデミック)状態となりました。7月19日現在、国内の累積感染者数は4,000人に達しましたが、今のところ死亡者は出ていません。

<今回の新型インフルエンザの実態>  もともとWHOの警戒水準は、病原性の強い鳥インフルエンザ(H5N1)が病原性を保ったまま新型インフルエンザに変異して、ヒトに感染することを想定したものでした。しかし、幸い、今回の新型インフルエンザの病原性は意外と低く、例年冬季に流行する季節性インフルエンザと、さして変わらないことがわかってきました。
 当初は、診断が確定したら感染症指定医療機関に入院させ、隔離するようにしましたが、幸い病原性が低いとわかり、また患者さんが急増した地域では「発熱外来」がパンクしてしまう所もでてきました。このため診療体制をゆるめて、一般の診療所でも新型インフルエンザが疑われる患者さんの診療ができるようにし、自宅療養も可能、とするようにしました。

<今後の見通しと「第二波」への備え> 今回の新型インフルエンザ騒動が一旦下火になったとしても、冬に向かってインフルエンザが流行しやすくなりますので、「第二波」がやってくる可能性が高いです。冬季に流行する季節性のインフルエンザA型と新型インフルエンザとの区別は、通常の迅速簡易検査ではできません。A型が判明した患者さん全例を対象として、さらに確定診断のための精密検査(PCR法)を実施できるかというと、実際問題として、人手や検査資材の調達の面から、困難と思われます。 予防のためのワクチンについては、新型インフルエンザ用のワクチンを優先して製造するようですが、国内メーカーのワクチン製造能力には限界があり、季節性インフルエンザ用のワクチン製造量は例年より少なくなってしまいます。限られた供給量のワクチンを、どういう優先順位で接種するのか、今後、議論となる問題でしょう。

<次の点にご注意下さい> 今年の秋〜冬へ向けて;
1.まず、インフルエンザにかからないように注意しましょう。人混みに行かない、マスクをする、具合悪そうにしている人に接近しない、帰宅したら十分な手洗いとうがいをする、よい体調を維持する、など。
2.ワクチン接種を受ける。ただし、ワクチン供給量が十分でない心配あり。
3.万一、発熱その他の症状が出てしまったら、まず、「発熱相談センター」電話番号;237−1403(甲府保健所管内)に電話し、「発熱外来」に受診すべきか、「かかりつけ医」への受診でよいか、指示を受けて下さい。ただし、一般診療所では、他の患者さんと分離して診療しなければなりませんので、いきなり来院するのではなく、必ず事前に電話して下さい。その上で、時刻を打ち合わせてから来院し、まずは車内に待機していただき、指示に従って下さい。

<今回の教訓を今後に生かすために> 今回の新型インフルエンザは、幸いにも低病原性のタイプでした。本当に怖いのは、鳥インフルエンザから変異して生ずる強病原性の新型インフルエンザです。これは、いつ発生してもおかしくない状況といわれています。それに備えて、今回は、よい予行演習だったのかもしれません。強病原性の新型インフルエンザは、今回のような病状では済まないでしょう。くれぐれも油断のないように心しておきましょう。


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