解説シリーズ[心を考える](その7);
不 登 校:(下)
前々号、前号の2回に引き続き、不登校について最終の解説をします。

<不登校の子のその後>
 文部科学省の調査によると、中学時代に不登校を経験した子の約8割は、5年後には就学または就業していました(1993〜1999年の調査)。つまりこの調査では、不登校を経験したからといって、多くの場合、その後の進路について悲観しなくてもよい、という結果でした。
 別の、精神科を受診した不登校児についての長期的な調査では、128名を対象とし、3年から13年余り追跡した結果、社会適応の回復状況は「良好」が28.6%、「不良」が42.8%で、決して楽観できるものではない、としています。この調査は、あくまでも精神科医を受診した不登校児を対象としたものであり、不登校児全体の傾向を表しているものではない、とは思いますが。

<回復を障害する要因>
 社会適応の回復状況は、不登校の期間が長くなるほど悪くなり、また、早期に(たとえば6か月以内に)専門機関を受診しなかった場合も回復状況は不良でした。家庭内の状況も、回復に大きく影響します。両親の不和・離婚、親の精神障害・アルコール依存症・ギャンブル・狂信的宗教活動、などです。
 家庭内では特に母親の役割が大きく、「母親の安心感が子の心を安心させる」のです。子供の見ているところで両親がケンカをしたりして、いさかいが絶えない。嫁姑間のあつれきで母親が落ち込み、孤立し、うつ状態になる。親が、アルコール依存だったり、ギャンブル・借金・異性問題などでトラブっていたり。このように平穏でなく、安心感のない家族を「機能不全家族」と呼びます。

<再登校への道のり>
 前号で、不登校の子供たちのたどる経過・道筋について、3期に分けて解説しました。ある程度時間はかかっても、多くの場合、最終的にはエネルギーが回復し、立ち直って再登校を含めた社会復帰へと向かっていきます。しかし、それは一気に解決するわけではなく、たとえば図に示したように、軽い課題から重い課題へ段階を踏んで徐々に不安を取り除いていく必要があります。それが順調に進むためには、家族はもちろんですが、友人たち、教師、カウンセラー、医師、などが協力して、本人を支援していくことが必須です。
 「フリースクール」への登校や、ITを活用した自宅学習も、学校の出席日数として認められるようになっています。


<不登校の治療について>
 カウンセリング、心理療法、行動療法、家族療法、集団療法、薬物療法、などがあります。不登校の子の状況により、組み合わせておこなっていきます。
[心理療法と生活改善]
 不登校に至るきっかけは、たとえば、友達による「いじめ」、先生に叱られた、給食を食べるよう無理強いされた、など挙げられますが、これらはあくまでも、きっかけ・引き金・誘因であって、原因はもっと根本に隠れていることが多いのです。たとえば、母子(親子)関係の問題、母子関係の裏にある夫婦関係・嫁姑問題、家族全員の問題、親自身の小さい頃からの育てられ方の問題、母親の精神状態(不安、うつ、他)、など。これらは簡単には見えてきませんが、カウンセリングを通して、これらを洗い出し、対処していくことが結局は不登校の解決につながっていきます。
 つまり、医師やカウンセラーによる心理療法やカウンセリングと、それに並行して、生活の中の問題点を見直していく生活改善が、二つの柱です。
 カウンセリングについては、まず家族がカウンセリングを受けて、家族関係の問題点を探り出し、解決の糸口を見いだすのも良い方法です(家族療法)。
 多くの公立小中学校には、スクールカウンセラー制度が普及してきました。多くの場合、非常勤の臨床心理士ですが、相談に乗ってもらうのもよいでしょう。
 不登校からの回復には、どうしても時間がかかりますが、不登校になって自宅に引きこもってから、できれば半年以内に専門の医師またはカウンセラーに相談して下さい。半年以上たってからでは、その後長引くという調査結果が出ています。やはり、早期診断、早期治療が大事なのです。
[薬物療法]不登校を治す薬はありません。薬物療法は、精神症状や身体症状が強いときにおこなわれます。抗不安薬、自律神経調整剤、胃腸薬、などです。

<保健室の重要な役割>
 不登校の前兆として、よく「頭が痛い」「おなかが痛い」「気持ちが悪い」などと言って、保健室に行くことがあります。これは、児童が自分の心の中をうまく説明できないために、そのような表現をするのです。そのことばの裏には、本当はもっともっと打ち明けたい気持ちがたくさんあるに違いないのです。
 養護教諭は、保健室を訪れる児童たちの心の中に隠れた不安や葛藤など、心理的な要因がないかどうか見極める観察力や知識が求められます。また、不登校になっていく予備群を見つけて早く対策ができるように、経験と技術が求められています。また、スクールカウンセラーと連携をとる役割も求められています。

<最後にひとこと>
 通常、不登校は小さな「つまずき」であって、決定的な大失敗ではないのです。最終的に自分のやりたいことを、自分に合った方法でできるようになればいいのです。本人の性格や希望に合った道をさがしましょう。そう考えると、気持ちがだいぶ楽になることでしょう。
 子供たちが不登校という窮地に陥る状況を考えるにつけ、子供を育てる家庭環境の大切さを思い知らされます。親の精神状態が安定し、家庭内が穏やかな状態であることは、子供にとって最も大切なことです。なかなかむずかしいのですが、理想的には、親自身が「心の成熟した人間」として日々を送り、生き甲斐をもって仕事に打ち込む姿を子供に見せることが大切なことでしょう。
 不登校についての公的機関の相談窓口としては「山梨県立精神保健福祉センター」がありますし、民間では「山梨不登校の子どもを持つ親たちの会」という団体もあります。相談してみたらよいでしょう。

日本再生のためにメディカル・ニューディールを!
 昨年末から正月にかけて久しぶりに渡米する機会があり、ワシントンDCに滞在しました。現地時間の12月30日、地下鉄でユニオン駅まで行き、そこから歩いて国会議事堂の前へ来ました。その裏側に行きますと、足場を組んで何やら建設中で、それはオバマ新大統領が就任演説をする演壇、ということでした。その場所は一段高い場所で、そこから見下ろすといわゆる「モール」と呼ばれる広場がずっと先まで見渡せます。この場所が、1月21日の演説当日は全米から駆けつけた国民ですっかり埋め尽くされたという訳です。美術館や博物館をゆっくり見ながら、モール周辺を散策しました。
 昨年来のアメリカ発・経済金融危機では、アメリカだけでなくわが国でも国民生活に大きな影響が出ています。この混乱の中、日米の二人の指導者はどのような施政方針を打ち出しているのか、特に医療福祉の面で比較してみました。

1.オバマ新大統領の施政方針演説
 就任演説では、オバマ新大統領は、医療に関しては「医療の質を引き上げながら、そのコストは減らす」とだけ述べました。2月24日の初の施政方針演説では、米国の経済・金融危機がいっそう深まるなか、エネルギー、医療、教育など幅広い課題をとりあげて経済再生の打開策を語り、国民の協力と団結を訴えました。また、国民から批判がある銀行救済策に理解を求めると同時に、エネルギー、医療保険、教育分野への集中的投資で経済成長をはかる長期策を強調しました。医療については、長い文章で、以下のようにくわしく述べています。
「−−−−これらのいずれもコストなしで実現できないし、容易でもない。しかし、ここはアメリカ合衆国だ。我々は安易な道をとらない。この国を前に進めるために必要なことをするのだ。同じ理由で、我々は医療制度における高負担に対処しなければならない。この負担はいまや、米国で30秒ごとに発生している破産の原因となっている。今年末までに150万人の国民が家を失う原因となるかもしれない。
 医療保険料は過去8年間で、賃金の伸びの4倍の速さで上昇した。この間、年間百万人以上の国民が医療保険を失った。こうした事実を前に、我々はもはや医療制度改革を棚上げにしている余裕はない。新議会発足直後に、両親がフルタイムで働いている子どもたち1100万人に、医療保険を提供しまた保証する法案を通過させた。我々の再生計画は、診療記録の電子化や、ミスを減らし、コストを削減し、プライバシーを確保し、そして生命を救うような新技術に投資する。
 また、我々の時代にガンの治療法を探し、ほぼすべての国民の生活に関連する、この病気を征服するための新たな努力を始める。さらに、予防的医療に過去最大の投資を行う。それが人々の健康を保ち、医療コストをコントロールする最良の方法の一つだからだ。
 この予算は、これらの改革から成っている。すべての国民に、質が高く、かつ利用可能な医療を提供しなければならないという原則に支出を行うという、包括医療制度改革への歴史的な公約を含んでいる。 −−−−」
 オバマ新大統領の政策は、グリーン・ニューディールと呼ばれて、あたかも環境エネルギー政策が主体のようにいわれていますが、実のところ医療福祉や健康保険の分野へも相当に意欲をみせています。

2.麻生総理大臣の施政方針演説
 さて、ひるがえってわが国では、どうでしょうか。1月28日の第171回国会における麻生総理の施政方針演説では、次のように述べられています。
「−−−世界は今、新しい時代に入ろうとしています。その際に、日本が果たすべきは、『新しい秩序創りへの貢献』です。同時に、日本自身もまた、時代の変化を乗り越えなければなりません。−−−今回の世界的な金融危機は、百年に一度のものと言われています。しかし、危機はチャンスでもあります。危機が混乱をもたらすのか、それとも新しい時代を開くのか。それは、私たちの対応にかかっています。
 私たちは、この二世紀の間に、二度の危機的状況を経験しました。そしてその都度、自らの生き方を転換し、かつ驚異的な成功を収めたのが日本の歴史です。
 今回も、私たちが自らの生き方を選び、「この国のかたち」を創ります。目指すべきは、『安心と活力ある社会』です。−−−世界に類を見ない高齢化を社会全体で支え合う、安心できる社会。世界的な課題を創意工夫と技術で克服する、活力ある社会です。−−−−国民の安心を考えた場合、政府は小さければよい、というわけではありません。社会の安全網を、信頼に足る、安定したものにしなければなりません。中福祉を目指すならば、中負担が必要です。私は、景気回復と政府の改革を進めた上で、国民に必要な負担を求めます。 −−−第一の課題は、活力ある社会創りです。 −−(景気対策・雇用対策)−−
(責任ある財政運営)−−(改革による経済成長)−− (地域経営)−−
 課題の第二は、暮らしの安心です。暮らしの安心は、年金、医療、介護など、社会保障制度への信頼があってこそ、成り立ちます。
 年金記録問題により、公的年金制度に対する信頼が損なわれました。国民の皆様には、改めてお詫びを申し上げます。既に、「ねんきん特別便」をすべての現役加入者と年金受給者の方にお送りし、ご自身の記録を確認していただいています。−−計画的・効率的に記録回復作業を進めます。
 医師不足など地域医療をめぐる問題に対しては、医師養成数を増員し、勤務医の勤務環境を改善します。救急医療も、消防と医療の連携などにより、患者を確実に受け入れられるようにします。長寿医療制度については、更に議論を進め、高齢者の方々にも納得していただけるよう、見直しを行います。四月から介護報酬を引き上げ、介護従事者の処遇を改善します。
 少子化対策については、妊婦健診を十四回分すべて無料にします。出産育児一時金も、四十二万円に引き上げます。また、平成22年度までに十五万人分の保育所などを増やします。」
 以上の日米二人の指導者の施政方針演説を比べてみて、どうでしょうか? オバマ大統領は、「改革」をし、必要な「投資」をすることを強調しています。 麻生総理の演説では、実施すべき項目は並べましたが、必ずしも十分な予算を注入するという意気込みが感じられないので、インパクトに欠ける感じがします。現にここ何年も医療費を抑制してきた政府の方針があるのですから、無理もないところですが。

3.国民が真に望むこと
 インフラ整備は快適な生活を送るのに必要かもしれませんが、国民は、りっぱな道路・鉄道・空港などができるより、まじめに働けば家庭を持てて家族を養えること、必要なときに必要な医療が低負担で受けられること、年をとっても、たとえ一人暮らしでも安心して老後を過ごせること、などを希望しているのではないでしょうか? このような希望に沿った政治がおこなわれれば、国民はむやみに貯蓄に走らずに、消費が促進され、国内需要が伸びて経済の回復につながるものと思います。
 環境エネルギー対策は、日本にとっても重要な施策ですが、今までいくつかの公害に対処し、エネルギー危機を乗り越えてきて、技術を培ってきました。これはこれとしてさらに継続・発展させるべきですが、現時点で最も伸びが期待でき、国民が希望している施策は、医療福祉・介護の分野ではないでしょうか?
 アメリカ発の経済・金融危機に対して、当初はわが国へのダメージはさほど大きくはないだろうとタカをくくった面があったかもしれませんが、今や製造業も金融業界も大幅な赤字に転落して青息吐息です。その中で、医療・介護の分野は、毎年実績を伸ばしてきました。ことばを替えて言えば、成長分野です。それなのに、人材不足でもあります。雇用創出の余地はたくさんあります。この分野は、自動車産業に負けず劣らず裾野の広い産業ですから、国民のために生きた投資をすれば、落ち込んだ日本経済を浮揚させる力になるものと考えます。
 日本政府は医療費の増加を極端に恐れているようですが、これらの分野にもっと思い切った予算を注入して、世界的にも評価の高い「国民皆保険」制度を維持し、救急医療を充実させ、病院−療養病床−在宅医療の一連の連携を確立するなど、真に国民が望むことの実現をめざすべきです。それによって、多くの雇用の創出もはかれるでしょう。「安心と活力ある社会」などと漠然としたスローガンではなくて、もっと的を絞った「メディカル・ニューディール」を力強く掲げてほしいものです。


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