中沢クリニックだより
春の号(第71号)

解説 [四月からの主な変更点]

 この4月は、健康保険制度、医療費、健康診断・保健指導の制度、乳幼児医療費などの窓口無料化、予防接種、県の肝炎ウイルス検査事業、などいろいろな改定や変更が目白押しです。今回は、解説シリーズ「心を考える」を1回休んで、主な変更点につき解説いたします。

<健康保険制度の改定>
1.後期高齢者医療制度の新設
 加速度的に進む高齢化と増え続ける医療費に対して、国は近年次々と医療制度の改定を繰り返してきました。その意図するところは、国の医療福祉負担分を減らし、患者(国民)の負担を増やす、ということです。患者さんが病院や診療所の窓口で支払う金額は、近年増加するばかりです。一方、診療の技術料に相当する診察代は減額されたり低くおさえられたりして、医療機関の経営は悪化する一方です。その結果、医療従事者の待遇改善は進まず、むしろ過重労働に陥り、耐えきれずに辞めていく医師が続出して、医師不足があちこちで医療荒廃を招いています。病院の閉鎖、診療科の閉鎖、救急患者の受け入れ拒否、などです。
 「後期高齢者」という新しい呼称が登場しましたが、これは75才以上の人のことです。ちなみに、65才から74才までを前期高齢者というそうです。 この4月から、後期高齢者の健康保険が今まで加入していた健保や国保から分離され、新たに独立した公的医療保険制度「後期高齢者医療制度」としてスタートしました。75才以上の人に加えて、65才から74才までの障害認定を受けている人も対象になります。保険料は加入者が等しく負担する「均等割額」と所得に応じて決まる「所得割額」からなり、その徴収は、市町村がおこない、原則として加入者全員から徴収します。今まで、息子さんの扶養家族として保険料を払わなくて済んでいた人も、新制度では保険料を負担することになりました。保険料は、収入によって違い、また、都道府県ごとに条例で決まりますが、全国平均では6200円ぐらいといわれています。原則として年金から天引きされますが、すでに介護保険料も天引きされていますので、合計で毎月、約1万円が年金から天引きされることになり、かなり経済的にきびしくなる家庭も出ることでしょう。新制度の財政の運営は、都道府県単位の広域連合が担当し、財源については、約1割が加入者本人からの保険料で、約5割が税金で、残り約4割が74才以下が加入する各健康保険からの支援金で、まかなわれます。
[窓口負担はどうなりますか?];医療機関で診察を受けるときの窓口負担は、従来の老人保険制度と同じで1割負担です。ただし、現役並みの所得があるとして3割負担だった人は、従来と同様に3割負担です。
[軽減措置はありますか?];息子さんなどが社会保険や共済組合に加入していて、その扶養家族として今まで保険料を負担してこなかった人が、新制度に加入すると保険料を負担することになりますが、「平成20年4月から9月までは負担なし、10月から21年3月までは1割負担、その後は新制度加入から2年後までは半額負担」と軽減することになっています。また、国民健康保険では、夫婦二人世帯で一人が後期高齢者医療制度に移行し、一人が国民健康保険に残る場合、保険料負担を軽減する措置があります。

2.乳幼児の窓口負担軽減を延長
 今までも乳幼児の窓口負担は2割に軽減されていましたが、それがこの4月からは、「小学校に入学するまで」延長されます。

3.県・医療費助成の窓口無料化
 山梨県がおこなっている医療費助成(乳幼児医療費、ひとり親家庭医療費、重度心身障害者医療費)について、従来は主として、一旦窓口で支払ってから後で払い戻してもらう、という償還払い制でした。この4月からは、窓口での支払いを省略して無料化し、県から直接医療機関へ支払われる方式になりました。
 乳幼児医療費の場合、5才未満の乳幼児で通院による医療費が対象です。ひとり親家庭医療費の場合、「18才未満の児童を養育するひとり親家庭の親子、父母のいない児童」が対象です。いずれの場合も、「受給資格者証」が交付されますので、受診の際は窓口に提示して下さい。

<医療費・薬価の改定>
 かつての小泉内閣の時代に「三方一両損」という方針で医療費が削減され始めて、それが医療の荒廃につながりました。この4月に、2年ぶりに医療費(診療報酬)と薬価の改定がありました。産科・小児科・病院勤務医対策を盛り込んだ内容として、診療報酬本体では表向き0.38%の増加との発表です。しかし、これは、診療の現場からみれば机上の計算の結果であって、加算を取りにくくするなどによって数値には表れない「引き下げ」のからくりが隠れています。
 診察料関係では、老人外来管理加算を2点引き下げ、外来管理加算を算定できる条件がきびしくなりました。小児科外来診療料は、逆に初診・再診ともに10点引き上げられました。「後期高齢者診療料」という新しい点数が設定され、所定の手続きで届け出た診療所が、患者さんの同意を得て、慢性疾患を持った後期高齢者の患者さんに診療計画にもとづいた診療・指導をおこなった場合に、1か月に1回、600点を算定できる、としたものです。この中には、医学管理等の他、550点未満の検査・処置・画像診断、が含まれます。
 検査では、心電図、血液検査、尿検査、一部の検査判断料、がいずれも引き下げられました。
 薬価では、ほとんどの薬について、引き下げられました。ごく安い薬は、一部、据え置かれました。
 在宅医療の関連では、従来の在宅患者さんとは区別して、新たに様々な居住系施設に入居中の患者さんに対する訪問診療の専用点数が決められました。つまり、特別養護・養護・有料の各老人ホーム、介護保険制度上の特定施設、高齢者専用賃貸住宅、認知症対応型共同生活介護施設、などに入所している人が対象です。

<予防接種の変更>
 このところ毎年のように予防接種のやり方が変更されていますが、今年も4月より、以下のとおり、実施要領に改定がありました。
1.麻疹風疹混合ワクチンの追加接種(中学生・高校生)
 麻疹(はしか)と風疹の混合ワクチンは、おととしの4月から、乳幼児では2回接種するという方式になっています。それまでは、各一回ずつの接種でしたが、最近、大学生などで麻疹が流行して問題になっており、平成20年度から24年度にかけての期間限定の経過措置として、中学1年生と高校3年生で追加接種をすることとなりました。かかりつけの医療機関で受けられます。無料です。
 保護者同伴で受ける場合は、特別な手続きはいりませんが、保護者が同伴できない場合は、市役所から同意書と予診票をもらってきて記入し、それを児童が持参して接種を受けて下さい。

2.接種間隔の変更
 2回以上接種することになっている予防接種の間隔について、その表示を週表示から日表示に変更するとともに、間隔が1日短縮されました。
 「三種混合」については、初回3回の接種間隔が「3週間から8週間」という従来の表示から「20日から56日」という表示となりました。つまり、接種日の翌日から数えて21日目から56日目まで、別の表現をすると、3週間後の「接種日と同じ曜日」から8週間後の「接種日と同じ曜日」までの36日間、ということです。たとえば4月1日(火曜日)に接種を受けた場合、次の接種は4月22日(火)から5月27日(火)まで、となります。
 「ポリオ」の場合は、「6週間以上の間隔」という従来の表示から「41日以上の間隔」という表示となりました。つまり、6週間後の「接種日と同じ曜日」から可能となりました。
 尚、異なる種類のワクチンの接種間隔については、次のとおりです。
*生ワクチン(ポリオ、麻疹、風疹、麻疹風疹混合、BCG)を接種した場合、接種後27日以上の間隔をあけます。つまり、次の接種は4週間後の同じ曜日の日以降となります。
*不活化ワクチン(三種混合、ジフテリア破傷風二種混合、日本脳炎)を接種した場合、接種後6日以上の間隔をあけます。つまり、次の接種は1週間後の同じ曜日の日以降となります。

3.接種間隔を超えた場合の対処
 三種混合ワクチンでは、初回接種3回の間隔は20日から56日までと決められていますが、お子さんの体調によっては期限内に済ますことができない場合もあるでしょう。その場合、従来、公費の扱いができなくなりましたが、発熱などの医学的理由によって受けられなかった場合は、その状態から回復後すみやかに接種を受ければ、定期接種とみなして公費の扱いができることになりました。

<肝炎検査費の公費負担>
 B型肝炎、C型肝炎については輸血や血液製剤による感染者が問題になっています。肝炎検査は、従来、保健所において無料で実施されてきましたが、この度、山梨県の事業として保健所以外にも、届け出をして認定を受けた県下の医療機関で、公費で検査が受けられるようになりました。
 期間は、今年4月1日から1年間です(平成21年3月31日まで)。検査を受けたい方は、保健所に受診券の交付を申請します(電話、郵送、FAX、電子メール)。保健所から、受診券ほかの必要書類が郵送されますので、それらを持って、最寄りの認定医療機関にかかって下さい。なお、県内には5か所の保健所がありますが、それぞれの連絡先がわからないとき、また、「受診券申込用紙」がほしいときは、当クリニックにご相談下さい。

<特定健診・特定保健指導の導入>
 この4月から、国の生活習慣病対策の目玉となる「メタボ対策」としての特定健診・特定保健指導の制度がはじまりました。生活習慣病が増加すれば、ますます医療費が増えてしまうことから、なんとか医療費を抑え込みたいというねらいです。メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満によって高血圧、高脂血症、糖尿病、などが引き起こされ、さらに動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中、などにつながる病状をいいます。
 特定健診は、40才から74才までの国民が対象で、これまで検診からもれがちだった自営業者や専業主婦も対象に含まれます。健康保険組合や国民健康保険などすべての医療保険者に、年1回の健診を実施するよう義務化されました。
 特定健診の内容には、生活習慣・健康状態・喫煙などについての問診、身長・体重・腹囲・血圧の測定、血中脂質や糖尿病関係の血液検査、が含まれます。これらの結果が各保険者に報告された後、個別に又は集団で保健指導を受けることになります。問題点が指摘されれば、今までの生活習慣を見直して、どのように対策していくのがよいか、指導されます。さらに、必要があれば6か月後まで、指導・支援を継続し、効果の評価を続けます。
 今回の制度が今までと違う点は、目標が達成できないとペナルティーが課されるということです。5年後の2012年度末までに、特定健診の受診率を65%以上、特定保健指導の実施率を45%以上、メタボ症候群の該当者と予備軍の減少率を10%以上、という目標値が設定されました。この目標を達成できなかった保険者は、後期高齢者医療制度への支援金を10%程度増額するペナルティーが課されることになりました。


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