解説シリーズ[心を考える](その5)
自 閉 症(前)


 「心を考える」解説シリーズでは、小児に関係するテーマとしては、今までに、ADHD(注意欠陥多動性障害)とPTSD(心的外傷後ストレス障害)について解説しました。小児の心の問題については、自閉症は避けて通れない重要なテーマですので、大変むずかしい課題ではありますが、今回のテーマとして自閉症を取り上げて、解説してみたいと思います。

<自閉症とは?>
 自閉症(じへいしょう、Autism)は、社会性や他の人とのコミュニケーション能力の発達が遅滞する、「発達障害」の一種である、と定義されます。自閉症は、家庭での養育、学校教育、福祉施設での対応、などにおいて、最も困難の大きい障害の一つ、といわれています。
 自閉症のイメージとしては、「周囲からの働きかけに反応しない子供」というのが一般的です。あやしても笑わない、表情が乏しい、人見知りしない、後追いしない、視線を合わそうとしない、名前を呼んでも反応しない、一人遊びを好む、などで気付かれます。
 自閉症は、増加傾向にあることがはっきりしていて、日本では1000人に1〜2人の割合で生じていますが、どこまでを自閉症の範囲とするかによって発生率は大きく違います。男性と女性の比率は4:1程度と言われています。日本自閉症協会によると、現在日本国内に推定36万人、知的障害や言語障害を伴わない高機能自閉症(アスペルガー症候群)を含めると120万人いるといわれています。

<分類と症状の特徴>
 自閉症は、そのことばが示すような、自分の殻に閉じこもって周囲の人と交流しない、というような障害ではありません。
 分類の仕方は、研究者によって少し違いますが、症状の重度、軽度に注目して低機能自閉症、高機能自閉症と分類する人もいます。「低機能自閉症」と「カナー症候群」、「高機能自閉症」と「アスペルガー症候群」、はそれぞれ基本的には同じものであり、臨床的には区別しなくてもよいとされています(言語障害があるものをカナー症候群、言語障害がないものをアスペルガー症候群、と分類する人もいます)。高機能自閉症は、知的障害がないタイプ(一般的には知能指数70以上)をいいますが、ここでいう「高機能」というのは知能指数が高いという意味ではあっても、平均的な健常者より高いとは限らず、知的障害に近いレベルの場合もあれば、平均的な健常者をはるかに上回る場合もあります。高機能自閉症の場合、知能には問題はないとしても、やはり「心の理論」の障害のため、相互の人間関係に疎い、会話の雰囲気を理解出来ない、冗談を冗談と受け止めず真に受けてしまう、言外の意味を捉えられないなど、対人関係に問題を生じやすい、といわれています。
 知的能力に障害がある人が多いのですが、その障害の有無に関わらず一部の知的能力が優れている人もいます。「サヴァン症候群」と呼ばれる一部の自閉症者では、カレンダーも見ずに特定の日の曜日を答えたり、驚異的な記憶力を有していたり、特異な能力がみられる場合があります。

 自閉症の症状の特徴としては、次のような項目が挙げられます。
1.ことばの発達の遅れ。ことばの遅れは必ずあります。話せるようになっても、他の人のことばを「オーム返し」で話したり、独特なイントネーションの話し方だったり、ことばの使い方が奇妙、会話が続かない、などが見られます。

2.対人関係の困難さ。あやしても笑わない、名前を呼んでも反応しない、視線を合わそうとしない、相手の気持ちを理解できず友達と協調して遊ぶことができない、などが見られます。

3.アンバランスな感覚。たとえば、体に触られることに過敏に反応していやがる一方で、ケガの痛みには平気だったりします。赤ちゃんの泣き声、犬の吠え声、その他特定の音を極端に嫌って騒ぐ一方で、一般の人が耐え難いようなガラスや金属のこすれる音などには平気だったりします。

4.活動や興味の範囲が狭い。手をひらひらさせたり、コマのようにくるくるまわったり、上半身を前後にゆすったり、など反復的な動作をくりかえします。また、おもちゃを一列に並べることに没頭したり、自動車・電車・バス・飛行機・船などの乗り物に関心が向き、知識も豊富であったりする一方で、他の遊びや活動には関心が広がらない。

5.アンバランスな知的能力。知能指数で表される知能水準は、個人差があって多様ですが、全体としては低い人が多いのは事実です。しかし中には、ある特定の能力が全体の能力と比べて不釣り合いなほど優れている人がいます。たとえば、計算、ジグソーパズルや神経衰弱ゲーム、音楽、手芸、絵画、など。

6.変化に対する不安や抵抗。物を置く位置や並べ方、歩く道順、着替えの手順、日課やスケジュール、などに、とても「こだわり」があって、いつも決まったやり方でないと納得できず、変化や変更に強い不安や抵抗を示します。

<原 因>
 以前は、心理的なストレスによって自閉症になる、という説がありました。しかし、現在では、保護者の教育や生まれ育った環境が原因で自閉症になるということはない、とされています。つまり、乳幼児期に不適切な養育をされたために、親などに不信感を抱いて、心を閉ざしてしまった、というような障害ではないのです。現在では、原因は先天性の脳機能障害とされており、多くの遺伝的因子が関与する遺伝子異常が根本にあると考えられています。

<たとえばこんなふうです>
 9才の男の子。母親に連れられて診察にみえました。じっとしていることができず、ことばも全く話しません。ことばらしい音、叫び声、を発するだけです。話しかけてみても、こちらの目をみることはなく、目が合ったとしてもすぐにそらします。母親の膝に腰掛けても、まるでイスに腰掛けているみたいで、母親との気持ちの交流が感じられません。プレイルームで遊ぶ様子をみてみると、いろいろなオモチャをひたすら並べては、それをながめています。通院をするにも、自分が決めた道順を通らないと気がすまず、たとえその道順では病院と違う方向に行くことになっても、自分の主張する道順にかたくなにこだわって、駄々をこねます。学校でも、他の生徒たちとなじめず、特殊学級に属しています。


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