解説シリーズ[心を考える](その4)
摂食障害(1); 拒食症(中)

前号に引き続き、拒食症について解説を進めます。

<どのように診断しますか?>
拒食症と診断するには、他の病気(特に脳や消化器の病気)との区別が大切です。拒食症と間違われる病気としては、たとえば、「うつ病」に伴う食欲低下、妊娠初期のツワリ、ホルモンの異常(下垂体機能低下症)、胃腸の病気、脳腫瘍、などいろいろあります。そのため診断には身体面の検査が不可欠です。
拒食症が疑われるときは、著しい「やせ」のほか、「肥満に対する強い恐怖、やせていることを認めない」など心の状態や、身体症状などを総合的に見て、診断が行われます。小児科や内科などのかかりつけ医にまず相談し、さらに専門的な診療が必要ならば、専門医に紹介され、受診します。

神経性食欲不振症の診断基準として挙げられている項目は次のとおりです。
【厚生省研究班の診断基準 1990】
1)標準体重の−20%以上のやせ
2)食行動の異常(不食・大食・隠れ食い など)
3)体重や体型について歪んだ認識(体重増加に対する極端な恐怖など)
4)発症年齢:30才以下
5)無月経(女性の場合)
6)やせの原因と考えられる器質的疾患がない
これら6項目すべてを満たす場合に、診断できます。ただし、これらがすべて同時期にみられなくても、時期的にズレがあってもかまいません。

<拒食症の病状・症状、弊害>
痩せるということは、拒食症の人にとっては、脂肪がなくなり贅肉がとれ、ひきしまった身体になることだとしか考えられないようです。栄養失調のために内臓の諸臓器が萎縮してしまう、ということの危険性は、説明されてはじめて気づくようです。脳の萎縮、肝臓・腎臓機能の低下、卵巣や子宮の萎縮などが起こり得ます(これらは、もとに戻りうるものです)。脈拍の減少、低血圧はつきものですし、電解質のバランスも崩れます。血清中のカリウム濃度が極端に低下すると、心臓が影響を受け、不整脈や心不全を起こすことがあります。皮膚はカサカサして、うぶ毛が生え、頭髪が抜け、歯が悪くなり、貧血も起こってきます。女性では、月経が止まります。これらの身体症状は、飢餓状態や栄養失調症の症状にほかなりません。食物・水分の摂取量を増やし、栄養剤を飲む、あるいは、入院して確実に栄養補給を行えば、これらの身体症状は改善されます。
ただし、10才代の成長期に過激なダイエットや拒食症で異常にやせると、骨の成長に支障が出て、身長の伸びが止まってしまいます。後になって、それを取り戻そうとしても、身長が伸びる成長期をのがしてしまうと、取り返しがつきません。
拒食症では精神状態も変化します。食物をすすめられると不機嫌になる。外面はよいのだが、内面はとても悪くなり母親に当たる。当たるといってもからむような当たり方で、その中には甘えも混じります。本人によかれと思って親のすすめることは、ことごとく撥ねつけます。本人は激ヤセを好んでいるのですから、回復させようとするはからいは、本人にとってはさしあたり迷惑なのです。自己評価が低下し、自信がなくなり、引きこもることもあります。その他、ケチン坊になりお金を貯めこんだり、手クセが悪くなる(たとえばスーパーの食料品を万引きする)などがみられることもあります。

<「やせ」の心の中>
拒食症の人は、心の中でどう考えているのでしょうか? 拒食症の人にとっては、「やせ」は意味があることで、メリットもあるのです。
たとえば、「食事を減らせば確実に体重が減り、他では得られなかった満足感や達成感が得られる」、「やせていると、つらい現実から離れているような気分になれる」、「やせていると、年令相応の義務を果たさなくてもいいように感じられる」、「やせていると周りの人が心配してくれたり、親切にしてくれたりする。太ると見捨てられそう」、「やせていると、なぜか安心。太るのは、とにかく怖い」、「やせていると、できないことの言い訳になる。食べているのにできないのは、許せない」、などです。
拒食症の人は、本来なら現実の問題にちゃんと取り組むべきなのに、現実に直面するのを避けようとしたり、逃げようとする心理がはたらいて、まちがった対処法として「やせ」の道にはいりこんでしまうのではないか。または、自分の力では解決できない窮状を、ことばで表現できず、やせることで無意識的に助けを求めているのではないか。

<どのように経過しますか?>
前号で「発症のきっかけとなる出来事」について、解説しました。ダイエットその他で一旦やせ始めると、当初は飢餓による一時的な躁状態で、集中力が上がって勉強や仕事の成績が上がるかもしれません。また、自分でも、やせたことで達成感や誇らしい気持ちになるようです。しかし、やせが進行していくと、脳の栄養不足で思考力や判断力が鈍り、体力が低下するために、以前できていたことが十分にできなくなります。飢餓症候群と呼ばれる、飢餓がもたらす精神症状や異常行動がみられるようになり、日常生活に支障をきたすようになります。太ることや肥満に対して恐怖感を持っているために、体重を回復できず、さらにやせていってしまう。つまり、「やせの悪循環」に陥っていきます。
心配して食事を勧める家族と対立し、対立してもなお、自分の考えを譲らないので、家族とのいさかいが多くなり、家族もどう対応したらよいのかわからなくなってしまう。診察を受けたがらない本人の意志に任せていると、拒食症は長期化してしまいます。
(以下、次号へ続きます)

[医療費が改定されました]
今年四月、二年ぶりに医療費(診療報酬)が改訂されましたので、解説いたします。今回は「かつてない大幅な引き下げを!」という小泉首相の号令のもと、全体としてマイナス3.16%(診療報酬本体としてマイナス1.36%、薬価等マイナス1.8%)という史上最大の引き下げ幅となりました。国民皆保険制度を堅持し、国民に良質な医療を提供する、という観点から日本医師会は大幅な引き下げに反対してきましたが、あっけなく押し切られてしまいました。
薬価は、一昨年四月以来の全面的な改定で、一部の薬を除き大多数の薬で引き下げられました。平均ではマイナス1.8%ということですが、中には大幅に引き下げられた薬もあります。

<改定のポイント>
1.診察料の関係では、初診料、再診料、が引き下げられました。
2.医療費の内容が分かる領収書の発行が義務づけられました。
3.薬の処方箋については、後発品への変更を進めるために様式が変更されました。
4.在宅医療の推進のため「在宅療養支援診療所」を指定する制度を開始。
5.医療のIT化を推進し効率をはかるため「電子化」を進める制度を開始。

<各項目の解説>
1.医師の技術料の中核である診察料が、今回のように引き下げられたことは、かつて無いことです。わが国では、医師の技術料が世界的に見て低かったために、従来、技術料は引き上げ、薬価は引き下げる、という考え方で改定されてきました。今回は、このような従来からの考え方を無視して、大胆にも技術料を引き下げたことで、かなり衝撃的な改定となりました。尚、少子化への対策 も考慮してでしょうか、今回、小児科の時間外診療については、従来よりも手厚く点数の上乗せが行われました。

2.当クリニックでは、金額の内訳がわかる領収書を、すでに3年前から発行しておりますが、今回、すべての医療機関でそのような領収書の発行が義務化されました。

3.医師が処方箋を発行し、患者さんがそれを薬局へ提出して薬を調剤してもらう、という院外処方の場合、医師が了解すれば、保険薬局で薬を後発医薬品に切り替えて出すことが可能となりました。後発医薬品は、先発医薬品に比べて薬価が低いために、患者さんの負担金が減らせます。

4.在宅医療の分野では、今回、大きな変化がありました。在宅で療養出来る患者さんを病院から在宅へ誘導しようとの考えから、往診や訪問診療などの在宅医療に24時間体制で十分に取り組める医療機関を「在宅療養支援診療所」に指定し、診療報酬をそれなりに高く配分しました。当クリニックは、従来から在宅医療に取り組んできましたが、今回、この制度によって指定を受けるべく手続きをしてありますので、従来以上にしっかりと在宅医療に取り組んでいきたいと思います。

<補足説明>
高齢化社会が急速に進むわが国では、今後も医療費は増加しつづけるものと予想されます。今、開かれている国会では、医療改革関連法案が審議されていますが、おそらく、老人医療の患者負担増が決まることでしょう。このような厳しい医療情勢の中で、限られた医療財源をムダなく有効に活用しながら、より良い医療サービスの提供をめざしていきたいと思います。また、院外処方の場合、1回の診療及び調剤につき、患者さんの負担金が数百円多くかかり、割高になることは皆様もご存じと思います。当クリニックでは院内で薬を用意して患者さんにお渡ししていますので(院内処方)、その分、割安になります。また、後発医薬品も上手に取り入れながら、患者さんの負担軽減に努力していきたいと思います。


新年号(第62号)へ   ⇒夏の号(第64号)へ