解説コーナー [熱中症について]
かつて、熱中症による死亡事故は、軍隊や、炭坑・製鉄所などの労働現場で問題になりましたが、現在ではこれらはほとんどなくなり、スポーツによるものが問題になっています。健康な人がスポーツをする場合でも、熱中症についての知識が不十分で、無理をすれば、死亡事故につながることもあります。熱中症は夏以外の季節にも発生していますが、特に夏の季節に注意していただきたいので解説します。

<熱中症とは>
熱中症の「熱中」とは、「熱に中(あた)る」という意味だそうです。高温な環境が原因となって発生する障害を、総称して熱中症といいます。簡単にいえば、体の中と外の「暑さ」によって引き起こされる、様々な体の不調のことです。 気温が高かったり、激しい運動などで体内でたくさんの熱が発生することが原因でおこります。
体温が上昇すると皮膚の血管が拡張し、そこを流れる血液の量が増えます。また汗も出て、余分な熱を体の外に放散させます。このようにして、体温をほぼ一定の範囲内に保とうとします。しかし、高温の環境下では、これらの仕組みが正常に働かなくなることがあります。大量に汗が出ているのに水分を補給しないでいると、体は脱水状態となり、体内を循環する血液の量は減って熱の放散が逆に減ってしまいます。このような状態が熱中症です。熱中症は、熱波により主に高齢者に起こるもの、幼児に高温環境で起こるもの、暑熱環境での労働で起こるもの、スポーツ活動中に起こるものなどがあります。

<熱中症の分類とその症状>
熱中症で注意すべき症状として、次のようなものがあります。全身の倦怠感、脱力感、のどの渇き、吐き気・嘔吐、発汗多量、尿量の減少、体温上昇、皮膚の乾燥、痛みを伴う筋肉のケイレン(こむら返りなど)、めまいや意識障害、全身のケイレン、などです。 熱中症を4つのタイプに分類して、病状を説明すると以下のとおりです。

1.熱失神・日射病
発汗や水分摂取不足による脱水により循環血液量が減少し、皮膚血管の拡張のために血圧が低下して、脳に血液を十分に送ることができず、一時的に脳の虚血状態を起こします。朝礼などで直射日光の下で長時間立ったままでいたり、夏合宿などで高温の環境のなかで急激に運動した場合に失神したりするのがこれです。

2.熱ケイレン(熱性筋ケイレン、熱性こむらがえり)
運動中にたくさん汗をかいて水分の補給をする際に、電解質を補給しないまま水分だけを摂取するとナトリウムの欠乏状態が生じ、それによって筋肉のケイレンが起こることがあります。高温多湿な環境での重労働や、春から秋にかけての競技中に起こることが知られています。特に、夏場に長時間にわたる過酷なトレーニングやマラソンなどの競技中に、水分や電解質を十分に補給していないと、発症します。発汗とともに、体のあちこちの筋肉が痛み、ケイレンするのが特徴です。

3.熱疲労(熱疲弊)
大量の発汗、不十分な水分補給、更には体調不良から下痢などを起こしている場合に起こります。皮膚は青白くてやや冷たく、体温は通常か若干上昇しています。のどが乾く、体がだるいなどの症状の他、頭痛、めまい、吐き気なども訴えます。熱疲労は、熱射病の前段階ともいえます。この時点で異常に気づいて、早く対処すれば、熱射病への進展を防ぐことにつながります。

4.熱射病
熱射病は、熱が放散されずに体内に蓄積され、体の内部の体温(深部体温)が異常に上昇しているという極めて危険な状態です。体内の体温調節中枢機能に異常をきたし始めているため、自分で発汗して体温を下げることができなくなります。このため、皮膚は赤くほてった状態で乾燥し、体温は40度C以上にもなります。熱疲労の症状に加えて、嘔吐や意識障害などがみられます。

<症状の程度の分類>
熱中症は、症状の程度によって次のように3段階に分ける分類もあります。

I度(軽 度)
脈拍や呼吸が速く、顔色不良、手足や腹筋などに痛みをともなったケイレンがみられる。短時間の失神が起こることもある。
II度(中等度)
めまい感、脱力感、虚脱感、頭痛、失神、吐き気、嘔吐などのいくつかの症状が重なり合って出る。さらに、脈が速く、皮膚蒼白、血圧の低下、などのショック症状が見られる。処置が遅れれば、さらに重症化する危険性がある。
III度(重 度)
意識障害、おかしな言動、過呼吸、ショック症状などが、II度の症状に重なって起こる。温度調節機能が破錠し、重篤な病状に陥り、全身の臓器の障害を生じる多臓器不全となり、死亡に至る危険性が高い。

<現場での判断と処置>
熱中症が発症したと思われた場合、まず現場でできる処置を開始しながら、どのような状態か、を判断するためにバイタルサイン(意識状態、呼吸、脈拍、顔色、体温、手足の温度など)のチェックを急いで実施して下さい。
処置・手当としては、安静にさせて、処置のできる場所へ運びます。風通しの良い日陰や、可能ならば扇風機やクーラーの使える所が望ましい。衣服を緩め、必要に応じて脱がせ、体を冷却しやすい状態とする。 意識がはっきりしている場合に限り、水分補給をおこなう(水道水よりもスポーツドリンクが好ましい)。このような処置で、熱疲労、熱失神・日射病、については回復可能です。
呼びかけに反応が鈍い、反応がない、言動がおかしいなどの場合、熱射病に陥っており意識障害が考えられるので、必要な手当を行いつつ、至急、119番通報を行い集中治療のできる病院への救急搬送を要請する。体の冷却には、全身に水をかける、濡れタオルをかけて扇ぐ、首・腋の下・足の付け根などに氷嚢・アイスパック・アイスノンなどをあてる。また、足を高くし、マッサージをする。

<予防するには>
熱中症は、発症してから対処するというよりも、予防についての正しい知識を持って発症を防ぎたいものです。日本体育協会が「熱中症予防8ヶ条」として以下のような8項目を発表しています。参考にしてください。

1.知って防ごう熱中症

2.暑いとき、無理な運動は事故のもと
運動の時間については、日中の一番暑い時間帯は避け、早朝か夕方に切り替えるのも一法。
3.急な暑さは要注意

4.失った水と塩分を取り戻そう
水分補給のために好ましいドリンクとは、0.2%程度の食塩と3〜5%程度の糖分を含むもの、といわれています。

5.体重で知ろう健康と汗の量
体重の3%の水分が失われると、運動能力や体温調節能力が低下するので、運動による体重減少が2%を超えないように、水分の補給をしましょう。
運動前後で体重測定をしてチェックできるとよいでしょう。

6.薄着ルックでさわやかに

7.体調不良は事故のもと
かぜ症状や発熱のある人、下痢で脱水症状のある人、過労状態、二日酔いなどは、要注意です。貧血、循環器疾患、呼吸器疾患などが心配される人は、日頃からメディカルチェックを受けておくとよいでしょう。

8.あわてるな、されど急ごう救急処置

その他、注意すべき点としては、運動終了後しばらくたってから熱中症の症状がでることもありますので、運動終了後にも水分補給をしましょう。学校での熱中症事故は、体力・技術の未熟な低学年、肥満度が高い子どもに発生する率が高くなっています。夏のトレーニングでは、体力の劣る子どもや肥満している子どもは別メニューにするなどの配慮が必要です。
熱中症の発症が予測される場合には、応急手当を行うのに必要な、次のような物品を準備しておくことも大切です。冷却剤(氷、氷嚢、アイスパック、アイスノンなど)、送風器具(うちわ、扇風機、など)、熱ケイレンへの対処用に塩分濃度0.9%の飲み物(生理食塩水)、スポーツ・ドリンク(塩分濃度0.1〜0.2%、糖分濃度3〜5%で、5〜15℃程度に冷やしたもの)、携帯電話(現場から、すぐに救急車を呼べるようにするため)、などです。

<回復期の注意事項>
熱中症にかかった人が、暑い環境での運動を再開するには、相当の日数を置く必要があります。たとえ症状が軽かったとしても、最低1週間程度の休養が必要です。症状が重くなるにつれ、日数は増えていきます。
回復期間中は、暑い環境での運動や、激しい運動は厳禁です。十分に回復するまで休養の日数をおいたうえで、涼しいところでの軽めの運動から再開し、徐々に運動負荷を上げていくということになります。
一度かかった人は、再度かかりやすいということが言われています。十分に注意をして、くりかえさないようにしましょう。


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