解説シリーズ ---[最近の癌事情](その16)
〈ガンについての質疑応答〉
 
ガンという病気は大変むずかしい病気で、まだまだ解明されていないことも多いし解決できていない問題もいろいろとあります。
患者さんから、日頃の診療の中で質問されても、明解なお返事ができないことも少なからずありました。
今回は、ガンについてよく聞かれる疑問を取り上げて、答えを考えてみました。
問い;〈癌は遺伝しますか?〉

答え;親から子供へ癌が遺伝しますか?という疑問は、癌について最も多い質問です。多くの場合、癌そのものが遺伝するという心配はいらないと思います。
ただし、癌をおこす遺伝子異常がはっきりしている場合、その遺伝子異常が親から子へ遺伝する可能性が考えられます。その場合、親と子が同じ癌にかかるケースが出て、あたかも遺伝したかのようにみられることがあります。
たとえば、「家族性大腸ポリポージス」という大腸にたくさんのポリープが発生する遺伝性の病気は、高率に大腸癌を発生する「前癌状態」と考えられ、その病気を子供が受け継いだ場合、子にも大腸癌が発生します。また、乳癌の一部にも癌遺伝子が関与する場合があり、その遺伝子を親から受け継いだ女性は、若いうちから乳癌の発生に注意が必要です。

問い;〈いわゆる民間療法は効果があるのでしょうか?〉

答え;いわゆる民間療法は、代替療法、非通常療法とも呼ばれます。
癌に効果があると宣伝されていながら、実際のところ科学的に有効性が証明されていませんが、標準治療の代わりにおこなわれている治療をいいます。
たくさんありますが、一例をあげれば、飲尿療法、ゲルソン療法、丸山ワクチン、蓮見ワクチン、アガリクス、メシマコブ、プロポリス、キチン・キトサン、サメの軟骨、AHCC、気巧、などです。
患者さんやご家族が希望して使用してみるのは、自由ですが、一般に効果が誇大広告されがちです。有効性が証明されておらず、副作用についても十分に解明されていませんので、医師が患者さんに積極的にすすめることは通常しません。

問い;〈家族が癌とわかり病名の告知をするかどうか、主治医から相談があった場合、どう対処すればいいのでしょうか?〉

答え;癌の病名告知については、すでに「クリニックだより」35号にて解説いたしました。この問題は、患者さん一人一人で事情がちがうので、一律の話にはなりません。患者さんの性格、人生観、死に対する考え方、その時々の病状、などを考慮して、告知するかどうか、どのように告知するか、などを決めることになります。その際、主治医からご家族の意見が求められるでしょう。
患者さんの心の中は、医師よりもご家族の方がよくわかっていることが多いと思いますので、その辺を話していただけると主治医としては助かります。
告知の後、家族は患者さんをしっかり支えて、患者さんとご家族が心を一つにして治療に専念しましょう。私見を述べますと、告知をしない場合、ウソの説明を続けなければならないし、後になって患者さんが癌であることを知った時には「医者にも家族にもだまされた」と思いこんでしまうかもしれません。一日一日をしっかり生き抜くには、疑いや不信感をもっていない方がよいでしょう。癌はめずらしくない、誰でもかかりうる病気です。癌がみつかったら、「おいでなさったか」と受けとめて、最善の対処を考えていきましょう。

問い;〈ガンの検診は、受けるべきでしょうか?〉

答え;わが国では、集団検診、職場の定期検診、人間ドック、などいろいろな健康診断がおこなわれており、その中に各種のガン検診が含められて実施されてきました。癌が早期に発見されて、早期治療によって「命拾い」をした人がいる一方で、ガン検診が本当に有効であると証明されているのか、との疑問も出されています。
大規模で厳密な比較試験をおこない、統計的な結論として有効かどうか、を明確にするのは学問的には意義のあることとは思いますが、現実に医療の現場では早期発見早期治療で命を助けられる人がいるのです。
今後、コストパーフォーマンスの面から、検診項目の種類ややり方で改善すべき点が出てくるとは思いますが、今後も継続していただき、なるべく多くの人に受けていただきたいと思います。

問い;〈セカンド・オピニオンとはどういうことですか?〉

答え;この件については、すでに「クリニックだより」39号に解説してあります。
癌に限ったことではありませんが、患者さんが、かかりつけの医師だけでなく、他の医師の意見や見立てを聞いてみたい、と思うことがあるでしょう。2番目の医師の意見を、セカンド・オピニオンと呼びます。
癌のように、早期に適切な判断をしなければならない場合、当初の医師の説明では十分に納得できない、自覚症状がなく病名が信じられない、病名が確実なものかどうか再確認したい、などいろいろな思い・迷いが生じます。しかし、担当医に「他の医師の意見を聞いてみたい」と申し出るのは、やりにくいものです。最近は、インターネットや医療関係の本などから、患者さんが自分の病状についてさまざまな医療情報を手に入れることができますので、担当医の説明や医療内容が納得でき、信頼できるものかどうか、ある程度判断できるでしょう。
もし、セカンド・オピニオンを聞いてみたいと思うなら、遠慮せずに担当医に申し出てみましょう。最近は、医療の情報公開が進んでいますので、意外と簡単に検査結果などを貸し出してくれるのではないでしょうか。もし、そのような申し出に対して担当医が怒ったり態度を急に変えるようなら、その医師は信頼を失うでしょう。
万一、担当医との関係がまずくなるようなら、かかりつけ医に相談しましょう。私見ですが、当初の担当医とケンカ別れして他の医師にかかるようではダメです。医師とはもっとじょうずにつきあって、良い関係を残したままで別の医師にかかるようにしましょう。当初の担当医にことわりなく、次々とあちこちの医師を渡り歩く「ドクターズ・ショッピング」はやめておきましょう。

問い;〈インフォームド・コンセントとは、どういうことですか?〉

答え;直訳すれば、「説明の上での同意」ということです。
検査や治療の前に、担当医が患者さんに十分な説明をし、同意・了解を得ること、と一般に理解されています。1970年代にアメリカで提唱され、その後、日本にもはいってきた概念です。検査、治療、手術などの前に医師から患者さんに説明があり、承諾書にサインしてハンコを押すことだ、というふうな簡単なものではありません。患者さんの知る権利を保障し、検査や治療の方針を決めるのに、患者さん自身も参加していく、という一連の作業を含んでいるものと思います。「クリニックだより」35号で解説しましたように、患者さんが「自分の健康状態に関することは、良いことも悪いこともすべて承知し、自分の判断で対処していきたい」という考え方(患者さんの自己決定権)を支持する概念です。
癌のような重大な病状においては、非常に大切なことでしょう。以上のような作業の中で、患者さんがどうしても納得できないことがあれば、十分に質問し説明を求めましょう。それでも、不十分ならば、セカンド・オピニオンを求めてみたらどうでしょうか。

問い;〈自宅で療養したいのですが、どうしたらよいでしょうか?〉

答え;癌の種類にもよりますが、早期発見早期治療で処置できれば、通常の生活が可能です。しかし、完治できずに、癌とともに生きる、または癌と闘いながら生きる、という場合もあります。自宅で療養したい、という患者さんのご希望があれば在宅で療養することが可能になってきました。
病院の担当医に相談して自宅近くで在宅医療を担当してくれる開業医を紹介していただくか、または、かかりつけの医師に相談してみて下さい。在宅医療に向かう医療の流れの中で、また、病院と開業医が連携していこうとする病診連携が進む中で、在宅医療を担当する開業医がふえてきていますので、きっとご希望がかなうと思います。

問い;〈ペプシノゲンが問題にされましたが、どういうことでしょう?〉

答え;ペプシンという胃液の中にある蛋白質分解酵素の元になるものが、ペプシノゲンです。ペプシノゲンは1と2の二つのタイプがあり、血液検査で測定できます。ペプシノゲンを測定することにより、胃の粘膜の萎縮性変化をとらえることができると判明し、しかも胃粘膜の萎縮性変化が強い人では胃癌が多い、ということがわかってきました。胃癌発生の危険性の高い人を見つける検査として、健康診断の項目に加えられるようになりました。ペプシノゲン1は70以下、ペプシノゲンの1と2の比率は3以下、が問題となります。ペプシノゲン検査と胃レントゲン透視(バリウム液を飲む、間接撮影)とを併用することにより、胃癌の発見率が格段に向上した、という報告があります。ペプシノゲン検査で問題にされた人は、できるだけ胃内視鏡検査による精密検査を受けて下さい。


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