[医療費が改定されました]
 前号のクリニックだよりで解説しましたように、この4月から医療費が改定されました。そのやり方は、今回、従来と異なり、医療費抑制のために医師の技術料が初めて引き下げられました。医師も医療費抑制の痛みを分担しなさい、という訳です。
改定の主な内容は、次の通りです;

*医師の技術料の中で最も基本的な診察料が引き下げられました。再診料は1か月内で4回目以降、半分に減額されました。注射、リハビリ、理学療法、などで頻繁に通院する患者さんで、医療費がかなり目減りします。

*薬剤の公定価格(薬価)は、ごく一部の据え置き分を除き、ほとんどで引き下げられました。薬代の減少幅が大きかった人では、窓口でお支払いいただく金額が減ります。検査代も血液検査、CT、MRI、などで引き下げられました。

*従来、改定のたびに引き上げが続いていました在宅医療関連の医療費も、一部で引き下げられました。在宅医療を志向してきた医療の流れの中で、今回の引き下げ改定は意外で、医療費抑制が至上命令であることを示していると思われます。

*薬剤費の別途負担は、老人医療ではすでに免除されていますが、若年者については今回の改定でも廃止が見送られて、引き続き負担していただくことになりました。内服薬も外用薬も種類が多くなるほど、負担金が増えます。

*1回の受診で処方できる薬の日数の制限が、今回、かなり緩められました。この点につきましては、各患者さんの病状を考えながら、患者さんのご希望もお聞きして従来よりも長い期間分を出せるかどうかを決めていきたいと思います。


[老人医療の患者さん、850円になりました]
 
老人医療の患者さんでは、平成13年1月以来、一部負担金として1回800円をいただいておりました。今年4月からは従来より50円多く、850円をいただくことになりました(月4回まで)ので、よろしくお願いいたします。なお、今年10月からは、また、負担額が変更されることになっております。


解説シリーズ ---[最近の癌事情](その15)
〈ガンと闘う患者さん・ご家族に聞く vol.2〉
 
前回の前立腺癌の患者さんへのインタビュー記事は、かなり反響がありました。
今回はインタビュー記事の第二弾として、癌のご主人をご自宅で看取った奥様・T様にお話をうかがいました。癌末期の患者さんの在宅医療について、参考になれば幸いです。

問い;Tさんのご主人は、金融関係のお仕事に従事されていて、関西の支店を任されるまで昇進されました。しかし、3年前の春に副鼻腔にできる癌である上顎癌(じょうがくがん)を発症し、その手術後に再発して、結局、約1年半の経過で54才の働き盛りに亡くなりました。そもそも病気の始まりはどんなふうでしたか?

T様;主人が支店長として関西へ赴任した直後でしたが、3年前の4月に鼻の調子が悪く、支店の近くの耳鼻科にかかったところ花粉症といわれました。目の調子もおかしくて眼科にもかかりました。そこからさらに紹介されて、公立総合病院の耳鼻科を受診して精密検査を受けました。精密検査の結果、左の上顎洞という副鼻腔からできた上顎癌とわかりました。

問い;癌の告知はどんなふうにされたのですか?

T様;病院の耳鼻科の医師から、私と主人の兄夫婦とで説明を受けました。精密検査の結果、左の上顎癌で、回りの骨を破壊して左目や脳の方へ広がっていて、かなり進行している、とのことでした。

問い;ご主人は癌の告知を受けたのですか?

T様;耳鼻科の先生からの告知の場面には、主人は同席していませんでした。実は精密検査の結果が出る前に、主人は職場の嘱託医に相談したのですが、その医師から、病名は上顎癌で手術をすると顔の半分を切除することになる、といわれてしまったのです。支店長として赴任したばかりで、仕事に非常に意気込んでおりましたし、その前には癌という認識はなかったようですので、いきなり癌を告知されてしまって、かなりショックだったようです。くやし涙を流していることもありました。

問い;治療はどんなふうに進んだのですか?

T様;こちらに自宅がありますので、こちらの総合病院の耳鼻科を受診しましたところ、これだけ進行していると手術はむずかしい、といわれて、がっかりしてしまいました。その医師から、耳鼻科の手術で実績をあげている関西の病院を紹介していただき、診察を受けましたところ手術可能といわれ、治せる希望が出てきました。最初、抗癌剤を使って癌を少し小さくしてから7月に手術になりました。顔面の左半分を切除し、左の目も切除し、さらに脳外科の医師が加わって脳の一部を切除しました。26時間もかかった大手術でしたが、手術は成功した、といわれました。

問い;手術後の経過はどんなふうでしたか?

T様;少し間を置いて、形成外科の医師により顔面の形をととのえる手術をしていただきました。手術は十分成功したので、手術後の放射線治療や抗癌剤治療は必要ない、とのことで、やりませんでした。しかし、今にして思えば、やっておけばよかったのかな、という思いもあります。手術前には、説明がなかったのですが、脳の一部を切除したことで、予想外の障害がでました。一つは、右半身マヒが出たことです。歩行障害については、その後必死にリハビリをして、杖をついて歩けるまでに回復できましたが、右手の力の回復がなかなかで、字を書けなくなってしまいました。もう一つは、いわゆる失語症の症状が出たことです。考えていることが、うまくことばになって出てこない、考えていることばと違うことばが出てしまう、といったことがあって、自分の意志がうまく伝えられなくて、もどかしかったようです。その他、性格が変わったし、部分的に記憶をを失ったようでした。

問い;予想外の障害で、リハビリに苦労しましたか?

T様;確かに障害は予想外でしたが、自宅に帰ってきてリハビリ病院に通院して熱心にリハビリに励みました。本人にとって障害はもちろんつらいものでしたが、一生懸命に打ち込めるものがあったのは、よかったです。マヒした右の手足の機能訓練はもちろんですが、左手で字を書く練習もがんばって続けました。左手で毎日書き続けた日記帳は、今は大事な思い出の品となっています。リハビリ病院の機能訓練士や言語療法士の方には、はげましながら訓練を進めていただき、よくやっていただき、感謝しております。

問い;大手術によって治ったと思ってリハビリをがんばっていたら、再発がみつかってしまいましたが、そのときの状況はどんなふうでしたか?

T様;翌年の3月、手術後8か月たった時点の頭部CT検査で、再発ありと判明しました。改めて放射線治療が検討されましたが、病巣の場所が悪く十分量の照射ができないので、効果は期待できない、という結論になりました。本人は、脳手術の影響もあって、自分が癌を病んでいる認識がなくなっていましたので、再発については本人には説明しませんでした。

問い;再発がわかっても決め手になる治療ができない状況となったわけですが、その後はどのように過ごされたのですか?

T様;すぐに病状が悪化したわけではありませんでしたので、リハビリを続けながら、近所に散歩に出たり、私といっしょに買い物に行ったり、できました。4月には、北海道に旅行し旧友に再会ができました。この時は、まだ自力で歩けました。手術後1年たった7月、ついに自力で歩けなくなりました。私としては、できる限り自宅で療養させてあげたいと思っておりましたし、本人もそれを希望していると思っていました。

問い;その時点(2年前の7月)で、私どもに在宅医療のご相談があり、訪問診療をすることになりました。その後の経過を私から、かいつまんで申し上げますと、最初に診察させていただいた時は、右の半身マヒがありましたが、ソファーにすわることはできました。しゃべることはできず、話しかけても何も反応がありませんでした。左顔面は、形成外科手術をした状態のままで特に変わった点はないように見えました。7月下旬から急速に病状が悪化してきました。発熱、呼吸困難、食べられない、肛門からの出血(腸からの出血と思われる下血)、などが次々と起こりました。訪問看護ステーションから、訪問看護婦さんを派遣してもらい、私といっしょに診療にあたっていただきました。点滴、体の清潔、肛門部の処置、痰(タン)の吸引、などたくさんの処置を手伝っていただき、助かりました。

問い;奥様としては、このままご自宅で看取ることに決めていましたか?

T様;そうですね、不幸中の幸いと申しますか、本人は自分からは苦痛を訴えることができなくなっていました。苦痛には違いないのですが、それを表現できなくなっていました。ですから、私と娘と身内で世話をして、お医者さんと訪問看護婦さんとに手伝っていただければ、なんとか自宅で看ていけるだろうし、本人もそれを希望しているのではないか、と思いました。

問い;その後も処置を継続しましたが、病状はなかなか好転の兆しがないまま経過して、8月14日から15日にかけて急激に悪化しました。高熱、出血が持続、血圧が低下してショック状態に陥りました。そして、15日の午後、永眠されました。ご遺体の処置は、訪問看護婦さんに手伝っていただいておこないました。以上の経過でしたが、振り返って考えてみてご自宅での看取りはいかがでしたでしょうか?

T様;病院に収容していただいたとしても、結果は同じだったでしょうし、主人にとって最も安心してすごせる自宅で私や子供たちに看取られて逝ったことで、よかったと思います。発病から大手術を経て、約1年5か月の経過は、無我夢中で精一杯の世話に明け暮れる毎日でしたが、その間、たくさんの医療関係者、リハビリ関係者、主人や私の兄弟姉妹を初めとした身内の方々、子供たち、などのお世話や援助、お手伝いがあったから、なんとか乗り切ることができました。感謝しています。

問い;最後に、何か感想やご意見はございませんか?

T様;癌の告知は大変むずかしいことですが、主人の場合、職場の嘱託医が不用意に告知してしまって、ショックを与えてしまいました。もう少し配慮があってもよかったのではないか、という思いがあります。あれだけの大手術に耐えたのに、完全に治せずに再発してしまいました。予想外の後遺症もでましたし、手術してよかったのかどうか、という疑問があります。しかし、一度は手術できないといわれてがっかりしていたので、その後一転して手術できることになり、治せる希望を与えていただきました。結果はともかく、患者や家族に希望や安心感を与えることは、医師として大事なことだと思います。手術後に再発予防のために放射線治療や抗癌剤治療を追加しておけば、結果が少し違ったかも知れない、という気もしますが、専門医の判断でしたから、今さらしかたのないことです。主人の場合、末期の時期を在宅ですごすことができ、自宅での看取りができてよかったと思います。在宅医療はもっと評価されていいし、利用されていい、と思います。

問い;本日は長時間にわたり、お話をうかがうことができて、大変勉強になりました。
ありがとうございました。

 



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